3組に1組は離婚する時代。話し合って決める「婚前契約」のすすめ

PhotoAlto/Frederic Cirou/ Getty Images

これまで私は、弁護士として、上場企業の創業経営者として、参議院議員として活動を続けてきました。言わば3足のわらじを履いてきたわけですが、その経験を活かし、このコラムを執筆していこうと考えています。

第1回は、上場をめざす起業家や経営者の方々のリスクヘッジとして、「夫婦財産契約」をテーマについて書いてみたいと思います。


昨年、米アマゾン・ドット・コムの創業者でCEOであるジェフ・ベゾスが離婚したというニュースには、とても驚かされました。

驚いたのはその慰謝料の額です。離婚に伴う財産分与で、ベゾスは、同社株の約4%を前妻のマッケンジーへ譲渡したと言われていますが、その額が日本円にして約4兆円。この譲渡によって、マッケンジーは、一躍、世界第3位の女性富豪となりました。

過去に離婚した大富豪の事例を見てみても、ラスベガスのカジノ王であるスティーブ・ウィンが離婚の際に推定8億5000万ドルを譲渡した例や、伝説的なファンドマネジャーとして知られるビル・グロスが前妻に13億ドルを譲渡した例がありますが、総額約4兆円というのは前代未聞、過去最高額の財産分与と言えるでしょう。

マッケンジーはベゾスがアマゾンを起業し、世界的な大企業へと成長させるまでの間、積極的に彼をサポートしたことで知られています。ベゾスが彼女について語ったツイートでは、「私たちが一緒に行なったすべての仕事で、マッケンジーの能力は全面的に発揮されていた。彼女は類稀なパートナーであり、同志であり、母親だった」と呟いています。

夫婦の離婚がステークホルダーにまで影響を


日本でもアメリカでも、結婚期間中に形成した資産は折半するというのが原則的ルールです。アマゾンの企業価値が拡大していくすべての期間が、2人の婚姻期間に含まれていますから、いわゆる「糟糠(そうこう)の妻」であったマッケンジーに、巨額の財産を分与することに、ベゾスもためらいはなかったのかもしれません。

とはいえ、外野というのはいつの時代もゴシップ好き。ベゾスの離婚時、ひとつのワードに世間の注目が集まりました。「婚前契約(プレナップ)」です。

ベゾスはマッケンジーとの間に「婚前契約」を結んでいなかったと言われています。巷間では、「結んでおけば、あれほど大きな財産分与にならずに済んだのに」という声も聞かれました。

私は、創業経営者として、かつ弁護士として、起業家や経営者の人たち、とくに上場をめざしているような方々は、この「婚前契約」で「夫婦財産契約」を結んでおくとよいのではないかと考えています。

日本では約3組に1組が離婚すると言われています。たとえば、平成29年度の年間の婚姻件数は60万6866件で、年間離婚件数は21万2262件です。数字を見ても、離婚はけっして珍しいものではありません。

一般的なサラリーマン夫婦の離婚であれば、それほど周囲に大きな影響を及ぼすことはないかもしれませんが、これが企業経営者、特に上場企業の経営者の離婚となると話は変わってきます。

経営者が離婚する場合も、婚姻期間中に形成された財産は基本的に折半することになります。その対象に自社株が含まれている場合、当然自社株も折半ということになります。

ベゾスのように、資産の多くが自社株である場合、自社株を分与することで、離婚と同時に、突然、その会社の大株主が新しく誕生するという事態が起こってしまいます。しかも法律に忠実に則れば、創業者と同じ持株比率を持つ大株主が現れるわけです。これは企業にとって大きな混乱が起こるリスクとなります。

役員や社員、取引先、顧客など、家庭内の「離婚」という極めて私的な問題であるにもかかわらず、会社のステークホルダー(利害関係者)全体に甚大な影響を与えてしまうのです。これを防ぐためには、「夫婦財産契約」を事前に取り交わしておくべきだというのが、私の考えです。

「夫婦財産契約」を婚姻前に結び、その際に自社株を財産分与の対象から外すことを明記しておく。これは、本人のリスク回避という意味合いだけではなく、将来のステークホルダーや社会全体に対する責務ではないかと思います。特に上場を目指している企業の方ならなおさらではないでしょうか。
次ページ > 婚前契約を結ばず痛い目を見たトランプ

文=元榮太一郎

ForbesBrandVoice

人気記事