来るべき5G後の通信の未来について、「PEST」という4つの視点から考えてみたいと思います。PESTとは、Politics、Economy、Society、Technologyの頭文字です。
まずはP(Politics)です。これは、政策的視点です。通信政策とは、通信事業者の間で健全な競争が行われるための環境を整備する「競争政策」と、公共の資産である電波を効率的に活用するための「電波政策」、この2つを軸に制度設計されてきました。
それが5Gにおいては、新たに「地方創生政策」としての様相を強めています。総務省では、5Gの用途開発が推進されていますが、その対象は地域における社会課題を5Gで解決するアプリケーションとなっています。
特定の場所で誰もが通信事業者になれる「ローカル5G」政策も、全国展開する通信事業者が需要の大きな都市部から5Gエリアを展開したいと考えるなかで、地方部で5Gを利用したいというニーズに応えるための政策です。
地方部の通信ニーズは、必ずしもスマートフォンでの大容量コンテンツ消費ではないでしょう。それは、工場や病院、公共施設といった、特定の空間におけるその場所特有のニーズが喚起され、その解決策が実装されると想定されます。
キャッシュレスサービスは加速する
次はE(Economy)、経済的視点です。これには、5G通信やスマートフォンの料金から、どのような新たなサービスが生まれるかまで幅広い観点がありますが、すぐ足下のトレンドとしては、キャッシュレスサービスの普及に伴い、通信事業者が経済圏(エコシステム)競争を激化させていくことが挙げられます。
通信事業者のコア事業である通信ビジネスについては、人口が減少トレンドにあるなか、年々料金は低廉化し、通信事業者にとって現在の収益の源泉ではあるものの、拡大させることが難しい状況にあります。
そこで、通信事業者は、通信の上に乗るモバイルサービスで稼ぐため、生活動線に徹底的に寄り添ってビジネスチャンスをつくり、刈り取るというアプローチをとることになります。
キャッシュレスサービスであるNTTドコモの「d払い」、KDDIの「au PAY」、ソフトバンク+ヤフーの「PayPay」は、大型キャンペーンを通じて急速に利用が広がっていますが、通信事業者がこの領域に莫大な投資を行うのには、そのような新たなビジネスチャンスを追ってのことです。
5G時代もこのトレンドは緩むことはありません。前述の3つのサービスに楽天も含めて、キャッシュレスサービスを通じた経済圏競争は加速し、今後も通信事業者の存在感は高まる一方でしょう。
ただし消費者の生活圏は限定的です。東京に住み、東京で働く消費者にとって、沖縄の小売店は生活圏の外にあるように、通信事業者が展開する経済圏は、消費者の生活圏のサイズで設計される必要があります。