それでも私はやってない!「MLBのサイン盗み騒動」で過去の処分に注目再び

2019 World Series Game 7 - Washington Nationals vs. Houston Astros(Photo by Alex Trautwig/MLB Photos via Getty Images)

一方、今回のヒューストン・アストロズのサイン盗み疑惑に、MLBはチームにドラフト指名権の制限と約5億円の罰金を加え、ジェフ・ルーノーGMとA・J・ヒンチ監督にサスペンションを与えたが、繰り返すように、その「刑期」はたった1年なのだ。球団は、監督らを解雇したものの、翌年、どこかのチームが彼らを雇うことは可能だ。

ダルビッシュ有投手が、ユーチューブで自ら解説しているが、アストロズのサイン盗みは、組織的なものであり、ずっと以前から噂があったとされている。

ドジャース時代にワールドシリーズでアストロズに打ち込まれて、ファンからは戦犯扱いされたダルビッシュは、けっしてそのことをサイン盗みのせいだとは語っていないが、それがむしろ潔いと、このところこちらの野球ファンの間では株を上げている。

彼は、2塁ランナーがベース上から盗もうとする人的なものはお互い想定内の攻防ではあるが、ここにテクノロジーが入り込み、映像解析が入り込んだら、もう野球ではなくなると解説している。つまり、この組織性とテクノロジーの介在が、もはや否応もなく野球の醍醐味を貶めたというのだ。

1つの証拠として、当時アストロズに所属していたマーウィン・ゴンザレス選手は、生涯打率が0.264だったのが、2017年には0.303に跳ね上がっている。なるほどダルビッシュの言う通り、もはや野球ではないかもしれない。

そして、アストロズのサイン盗みの容疑については、状況証拠だけでなく、電子メールのやり取りで、ゼネラルマネージャーがサイン盗みを認知し、賛辞まで与えた決定的証拠まで残っている。

「三振制度」はどこへ?


当事者が悔悛の情を示したがゆえに、今回はこの程度の処罰で収まったとも言えるが、「それでも私はやってない!」と30年間冤罪を主張するローズが、アストロズへの処分に対して公平性がないと声を上げるのはよくわかるところだ。

元シンシナティ・レッズのピート・ローズ(Steven Ferdman / by Getty Images)
元シンシナティ・レッズのピート・ローズ(Steven Ferdman / by Getty Images)

ローズによれば、薬物違反を犯した選手は80試合のサスペンション、再犯者には162試合、そして3度目のペナルティーで初めて永久追放となる「三振制度」というものがあるのに、初犯で容疑をかけられた自分が永久追放処分を受けるのは厳し過ぎるという論理はひとつ筋が通っている。

17回もオールスターゲームに出場したピート・ローズに再審の機会を与えない限り、むしろMLBはその恣意性や密室性が批判され、ますます野球が他のスポーツに比べて見劣りするのを呼び込んでしまう気がするのだが。

文=長野慶太

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