「同意のない性行為」にNO!レイプの定義を一新するスウェーデンの性犯罪規定とは

左からヴィヴェカ・ロング(スウェーデン司法省上級顧問) 、ヘドヴィク・トロスト氏(スウェーデン検察庁上級法務担当) =スウェーデン大使館提供


20年以上続いた法改正の議論


2018年の法改正までの道のりは、決して楽ではなかった。スウェーデンでは性犯罪に関する刑法について、過去に20年以上の議論がなされている。実は、2005年と2013年に既に2回の法改正がなされていたにも関わらず、どちらも同意に基づく性犯罪法(「Yes means Yes」法)の成立には至らなかった。この理由について「政府としては懸念事項が多すぎた」とヴィヴェカ上級顧問は振り返る。

まず、法律の専門家である弁護士界から、大きな懸念が表明されていたのだ。新法によって、被害者側に対して、必要以上の捜査がなされる可能性があるからだ。被害者の服装、見栄え、過去の性行為の経験などについて詳細に調査が行われ、負担が大きくなることを、弁護士たちは危惧していたのだ。また、裁判が被害者の証言頼みになってしまう懸念がある。

このような懸念から、過去2回の改正については、無罪になるケースを少しでも減らすため、性犯罪についてより広く定義するという形を取らざるを得なかった。

しかし、国民は2013年の法改正が不十分であることを見抜いていた。「まだ法改正についての議論が不十分である」や「性犯罪の実態を反映していない」という声が上がり、その意見は国会まで届くことになる。不満の声を受け、政府はようやく委員会を設立した。メンバーは議席を有する全政党の代表者と、政府省庁の代表者で構成された。

度重なる審議の上、委員会では「スウェーデンでは性犯罪は『同意』をベースにした法律に変えるべき」という結論に至る。2018年の改正によって、「全ての個人の性行為に対する自己決定権を保証し尊重する」ことを可能にしたのだ。司法当局の狙いについては、後に詳しく述べたい。


 世界で巻き起こる#MeToo 運動。スウェーデンで女性の権利を訴える若者 (Shutterstock)

教育現場も全てのハラスメントは「ゼロ」に


政府や国会の動きに加えて、教育現場からの声も、少なからず法改正に影響を与えた。世界中で旋風を起こした #MeToo のムーブメントに加えて、高等教育においてスウェーデン独自の #akademiuppropet というハッシュタグが、功を奏した。

このハッシュタグは、英訳するとUniversity Call for Actionという意味を持つ。2000人以上に上る教職員や研究者たちが、何らかの形でハラスメントの被害を受けたことがあったという実態を踏まえ、教育現場ではあらゆるハラスメントを受け入れないという姿勢を示すものだ。

現在スウェーデン高等教育協議会においては、あらゆるレベルの教育現場で、性犯罪に対して、Zero Tolerance (容認ゼロ)ということを掲げた。大学を始めとした、全ての学術機関に対し、ハラスメント撲滅への活動を促している。さらに「これに付随して、政府では、スウェーデンの社会統合平等省における、ジェンダー平等部が、あらゆる形態の女性への暴力を容認しないという運動を行なっています」と発表した。
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文=初見真菜

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