「同意のない性行為」にNO!レイプの定義を一新するスウェーデンの性犯罪規定とは

左からヴィヴェカ・ロング(スウェーデン司法省上級顧問) 、ヘドヴィク・トロスト氏(スウェーデン検察庁上級法務担当) =スウェーデン大使館提供


2019年3月に名古屋地裁岡崎支部が出した判決では、中学生の頃から実の娘に性交を強制していた父親が、性的暴行の罪に問われたものの無罪を言い渡された。加害者が娘との精神的な支配関係を濫用し、同意のない性行為に及んでいたにも関わらず、無罪となった。裁判長は、あざができるほどの暴行があったことを認めた上で、その恐怖は性交を受け入れざるを得ないほどのものではないという判断を下した。スウェーデンの法律と照らし合わせれば、結果は大きく変わってきただろう。

この事例から明白なように、日本では、無理やり性行為をされたという事実があったとしても、加害者は罪に問われないケースがある。意に反する性行為である上に、暴力や脅迫があったことを立証すること、また心神喪失や抗拒不能であったという要件が必要なのだ。

また、他国と比較して顕著な違いとして、日本の性交同意年齢の低さが挙げられる。性交同意年齢とは、性行為を行うか行わないかを自分で判断できる年齢のことだ。各国を比較すると、ドイツと台湾では14歳、フランス、スウェーデンでは15歳、カナダ、イギリス、フィンランドにおいては16歳と定められている。それに対して、日本では13歳だ。伊藤弁護士は、性教育が充実していない現状を踏まえると「13歳の時点で、はっきりとYes, Noを言えるはずだ」という前提に、疑問の声を上げた。

それでは、スウェーデンの性行為同意法ではどのように性犯罪が立証されるのだろうか。

スウェーデン大使館共催イベント
上智大学での「Yes means Yes」法を学ぶ公開セミナーには多くの人が集まった=スウェーデン大使館提供

“Yes mean Yes”法は、なぜ先進的?


2018年の法改正で、積極的な同意や自発的な参加を要件とする性犯罪法が成立したスウェーデン。「ここで問題になるのが、自発的参加とは何か、ということだ」と、ヴィヴェカ上級顧問は指摘する。「自発的参加」の基準としては、言葉で明確な意思を示すこと、それに準ずる文言、そして両者の積極的な行動などがあることだ。自発性を認める言葉や、態度によって判断がなされる。

また、新しい法律では、以下のような条項が制定された。

・被害者との依存関係を濫用した同意のない性行為は有罪
・被害者と加害者が同じ場所にいなくても、同意がなければ有罪

今回新たに追加された「依存関係」は、性犯罪における刑法として、先進的な条項である。例えば、児童が教師に依存していることを濫用され、性行為に参加するという結果に至った場合には、教師が罪を問われることになる。親子関係でも同様だ。

上記の「場所」についての条項については、「性的行為において、加害者と被害者が同じ場所にいなくとも、性犯罪は起き得る」とヴィヴェカ上級顧問は解説した。これはオンライン上でのウェブカメラを使用するケースなどを含む。
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文=初見真菜

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