日本と豪州が急接近している。特に日本の安全保障政策で、豪州は米国に次ぐ重要なパートナーになっている。「つい10年前までは日米韓だったが、今は日米豪の枠組みがより重要だ」と語る日本政府関係者もいるほどだ。
なぜ、日本と豪州は接近しているのか。昨年11月に豪州のキャンベラとシドニーを訪ね、有識者らに豪州の現状を語ってもらった結果をシリーズで報告する。
豪州の首都キャンベラ。昨年、ここにある豪州の代表的シンクタンクのひとつ、戦略政策研究所(ASPI)を日本の安全保障研究者が訪ねた。
訪問はASPIの招請によるもので、招いた理由は「第2次世界大戦当時の日本軍の南方展開戦略について知りたい」というものだった。
席上、ASPI側から質問が飛んだ。「ナンヨーコーハツについて詳しく教えてほしい」。南洋興発株式会社のことだ。戦前、満州鉄道と並ぶ、大日本帝国の代表的な国策会社だった。1920年代に設立され、当初は日本の信託統治領だったサイパン島で製糖業に進出。その後は、中部太平洋のニューギニアやパラオなどでも事業を展開した。欧米諸国が日本の軍事進出を警戒するなか、南洋興発は民間開発を名目に、後の日本の軍事拠点を整備する役割を果たすことになった。
そして終戦から75年が過ぎようとする現代で、豪州の人々は、当時の南洋興発と同じような動きを中部太平洋の各地で目撃している。中国による進出だ。2015年10月、中国企業「嵐橋集団」が、豪州北部ダーウィン港の一部の港湾管理権を99年間租借した。港からは、米海兵隊の駐屯地も目視することができる。昨年には、中国企業によるミクロネシアやメラネシアなどの港湾開発や海底ケーブル敷設などの動きも明らかになった。
日本の専門家とのディスカッションに参加したASPIのマイケル・シューブリッジ副所長は「過去の日本の計画を知ることは、なぜ、我々が中国の計画と行動を懸念する必要があるのかという洞察力を与えてくれる」と語る。洞察力を与える具体的な見本が南洋興発だったというわけだ。
シューブリッジ氏は「南洋興発は、軍民両用技術を利用した経済社会基盤の整備(dual use infrastructure)という発想だ」と語り、18年秋に豪州の安全保障関係者の間で話題になった具体的な例を教えてくれた。
同氏によれば、当時、豪州の隣国にあたるパプアニューギニアのメナス島の開発が話題になっていた。中国企業から、この島の開発について提案があった。これについて、豪州内では、軍用機や軍の艦船も利用できる港湾施設や飛行場の整備につながるのではないか、という疑念の声が上がったという。結局、豪州は米国と協力してパプアニューギニア政府に働きかけ、両国が中国企業に代わって開発を担うことで決着したという。