87歳名杜氏がパリのスターシェフとともに創り出すガストロノミックなひととき

農口尚彦/1932年石川県能登町生まれ。祖父の代からの杜氏の家に生まれ、16歳で酒造りの世界に。歴史ある全国新酒鑑評会で連続12回を含む通算27回の金賞を受賞。



19年1月24日に開催された「小松Saketronomy」。

この日行われていたのは「小松Saketronomy」。Gastronomy(美食)とSakeを合体させた造語だといえば、その趣旨ももうお分かりだろう。「農口尚彦研究所」による美酒の数々と小松産を中心とした石川県のフレッシュな食材を使用したガストロノミックな料理をペアリングで楽しめる趣向というわけだ。昨年のスタート以来、3回目を迎えたこの日、「杜庵」に招かれたのは仏パリで活躍するレストラン「A.T.」オーナーシェフの田中淳シェフだ。


田中淳/1980年兵庫県生まれ。ピエール・ガニェールシェフに師事し、2009年に渡仏。「ピエール・ガニェール・パリ」で部門シェフを任される。その後ヨーロッパ各地のレストランで経験を積み、分子料理、北欧料理などの料理技術を体得。14年4月にパリで「A.T」オープン。




「Camouflage(Shimaaji)」と「Uni, Carrote, Tonka」

田中シェフはそのクリエイティブな美意識と繊細な手仕事から、師匠であるピエール・ガニェールシェフに「キッチンのピカソ」と称されているのだとか。そのシグネチャーディッシュである「カモフラージュ」は、シマアジのマリネをパセリのチップスによる緑のグラデーションが彩る、まさに迷彩模様の一皿。仕上げにシェフ自らが振ったヨーグルトのパウダーがさわやかな酸味をプラスする。

また、漆黒の器にニンジンが鮮やかなオレンジの階段のようにあしらわれた一皿には雲丹のビスクをかけた。合計12皿の料理にそれぞれ「農口尚彦研究所」の酒が冷酒や燗で供され、そのペアリングはときに同調するように寄り添い、ときに旨味や香りを補填して、小さな宇宙を創りだす。「日本酒の新たな可能性に気づかされた」と田中シェフはコメントしていたが、ゲストも同様、日本酒の食中酒としてのポテンシャルを改めて知るひとときとなった。


12種供された酒の中には「Limited Edition NOGUCHI NAOHIKO01 2017」など大変稀少なものも。

小松市といえば、小松空港を擁することから北陸のゲートウェイとして知られている。古都金沢や福井県の観光スポットへ流れがちな国内外の美食家たちの足を引き留め、小松の美味を堪能してもらうには格好のチャンスとなるであろう、この「小松Saketronomy」。「酒造りの神様」と称される農口杜氏と世界をリードするシェフたちのコラボレーションの今後も楽しみだ。


田中淳シェフ(左)と農口尚彦杜氏(右)

農口尚彦研究所 テイスティングルーム 「杜庵」
営業時間:14:15~15:45 
定休:水曜・木曜
料金:酒事 ¥5,000(税別)
*テイスティングは、農口尚彦研究所公式HP 無料会員ページより予約
*小松Saketronomyは不定期に開催予定



連載:いまおいしい、いま知りたい食のトレンド最前線
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文=秋山 都

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