キャリア・教育

2020.02.22 19:00

周囲に埋没するな。日本人女優がブロードウェイで成功した理由


インドでの瞑想修行で飛躍を遂げる


リスクを恐れずオーディションに挑むようになった彼女は、次々に新しい道を拓いていきます。2012年、ディズニーブロードウェイミュージカル「メリー・ポピンズ」への出演が決まり、北米54都市を巡回公演する一員に抜擢されました。

その後は「A Funny Thing Happened on the Way to the Forum 」などの数々の作品に携わり、2015年にはミュージカル「王様と私」で念願のブロードウェイデビューを果たします。そして、2017年、見事「ミス・サイゴン」に合格。由水さんは英語が第一言語ではない唯一の女優として舞台に上がりました。



アメリカでの俳優業は、日本とは違って完全な個人事業。「俳優の仕事の70%は、オーディションを受けることです」と由水さんが言うように、舞台に出演している最中でも、常に1人でオーディションを受け続けなければなりません。心身のバランスを崩してしまうことも少なくありません。由水さんも8カ月にわたるミス・サイゴンのオーディションで、焦りや葛藤、ストレスから、数カ月間、右手の肌がただれて剥けるほどボロボロになっていました。

「俳優は人間に対する深い洞察力がなければ、さまざまな役を演じることはできないのですが、そもそも自分の心と身体のバランスをコントロールできなければ、他人の心など洞察することなどできません」(由水さん)

彼女は、周囲から抱かれる華やかなイメージと現実の生活とのギャップに苦しむなかで「瞑想」に触れて、自分自身と向き合うためにインドへと向かいました。

インドでの瞑想修行を通して、「周りの目を気にせずに自分をさらけ出して120%の力を発揮したら、あとは天命に任せるしかない」と由水さんは悟ります。そして、自分の中にあったさまざまなリミットを取り払い、自分の存在価値を外からの評価に委ねないことを決意します。

そこから、彼女のストーリーは大きく飛躍し始めます。2018年にブロードウェイを代表する劇場であるリンカーンセンターで上演される「マイフェアレディ」に、唯一のアジア人女優として選ばれます。ロンドンの貴族を描くという題材に、アジア人がキャスティングされるというのは異例の抜擢でした。

しかも、スウィングという、舞台上でさまざまな役を演じる難解な役を任されたのです。それは、階級によってなまりや話し方を変えながら、貴婦人、メイド、男性にまで女役12役と男役10役分、計22人の役割を演じるものでした。

すべての役柄のセリフ、動作、立ち位置を把握していなければならず、どの役柄も求められるレベルは非常に高い。由水さんは、ダンスキャプテンというカンパニーのリーダーとして、個性が強い出演者をまとめる中継地点として頼られる存在を目指しました。
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文=安積陽子

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