夢を叶えるための3つの戦略
劇団四季でキャリアを積み上げること3年。それでもブロードウェイへの思いは捨てきれず、26歳の誕生日を迎えると、再渡米を決意します。由水さんは、今度こそ夢を叶えるために、新たな3つの戦略を立てました。
1つ目は、「俳優は稼げず苦労するというメンタルブロックを外す」こと。10年後、20年後、30年後の長期的なビジョンを鮮明に描き、そこから逆算して1年後、2年後、3年後という近い未来には何を達成し、いくら稼ぐべきかを考え、経済的に自立した自己イメージとビジネスマインドを強化していきました。
2つ目は、「実現したい姿を先取りして実践する」こと。ブロードウェイに立つ人間は、どのように考え、どのように周囲の人たちに対して振る舞うのか。ブロードウェイにふさわしい発言や行動を徹底して実践していきました。
3つ目は、「コンフォートゾーンを抜け出し、個人としてのアイデンティティを確立する」こと。このころ、アメリカで人気のあるアジア系の女性は、切れ長の目と艶のある長い黒髪が特徴的でした。しかし、由水さんは「アジア人女性」といった枠組みにとらわれないアイデンティティを求め、メイクや髪型だけでなく、話し方や歩き方、コミュニケーションに至るまで、徹底的に「自分らしさ」を研究していきました。
「“Celebrate Every Victory”=どんなに小さな勝利でも祝おう」「“Heart Connection”=前例やレッテルにとらわれずに、すべての答えは自分の心のなかにある。自分が良いと信じる方向へ向かって前進しよう」
この2つの言葉を胸に刻みながら、イノベーションマインドを鍛えていくことで、由水さんは人種や性別にとらわれない個人としての在り方を明確にしていき、次第にチャンスを手繰り寄せ始めます。2010年には、グラシエラ・ダニエル演出のミュージカルのキャストに合格。念願であったエクイティにも加入することができました。
この年、「シカゴ」のタフなオーディションを通して、彼女はチャンスを掴む極意を学びます。オーディションの課題は、前夜にメインの登場人物6名分のセリフをすべて覚えて、それを演じるというもの。
由水さんは登場人物の1人であるハンガリー人の特徴や演じ方がわかりませんでした。しかし、どうしてもチャンスを掴みたいという思いから、独自の判断でハンガリー人の役を日本人に変更するという大胆な発想で事態を打開することを考えます。言葉や文化は異なるが、同じ差別を受けてきた歴史やその時の心情、人種や文化を超えた人間としての共通点をクローズアップし、セリフも日本語に訳してオーディションで演じたのです。
一見無謀とも思えるこの作戦でしたが、決断する背景には彼女なりの確信がありました。それは、近年、インスピレーションを追い求めている演出家は、クリエイティブな発想ができて、フレキシブルな対応ができる俳優を積極的に選ぶ傾向があるということでした。彼女の奇策は、見事、演出家に受け入れられ、オーディションに合格。
この経験から、由水さんは「常識を覆すくらいの発想と、豪快に攻める姿勢がなければチャンスなど掴めない」という学びを得ます。