シネマの女は最後に微笑む

シャーリーズ・セロン(Photo by Jason Merritt / Getty Images)

少し古い話題になるが、年末の紅白歌合戦で登場したAI美空ひばりについて、ネットでは賛否両論が起こり議論になった。ある人にとっては「感動的な再会」であり、別の人にとっては「冒涜」と受け取られる故人のデジタル再現。

韓国では最近、数年前に幼くして亡くなった娘を8カ月かけてデジタル・コンテンツとして蘇らせ、VRゴーグルとトラッカー付きグローブを装着した母親が、スタジオで娘と再会するという番組があったそうだ。

死んでしまった愛する人と一時的でいいから再会したいという感情は、普遍的なものだ。でもそれは、“錯覚”の中でしか叶えることはできない。

自分の人生においても同様だ。老人なら過去の栄光を懐かしんでも良いだろうが、まだ何十年も生きねばならない人は、過去に囚われていては前に進めない。

というわけで、今回取り上げるのは、2011年の話題作『ヤング≒アダルト』(メイヴィス・ゲイリー監督)。シャーリーズ・セロンがなかなか醜悪なヒロインを演じて、第69回ゴールデングローブ賞主演女優賞を獲得している。

冒頭で描かれるのは、ヤングアダルト小説のゴーストライターのメイビスの、だらしない生活ぶりだ。

つけっ放しのテレビの脇のベッドから目覚める二日酔いの朝。伸びきったTシャツにボサボサ頭のままで、冷蔵庫を開け2リットルのペットボトルのコーラを直飲み。愛犬のポメラニアンをベランダに出してパックのドッグフードを与えるが、周囲には片付けてないパックが散らかったまま。

パソコンに向かって仕事を始めるも捗る様子はなく、チェックしたメールボックスに、故郷にいる元カレ・バディからの赤ちゃん誕生パーティのお知らせメールを発見する。

高校卒業後、田舎町を捨てて都会のミネアポリスに来たが、一時は順調だった仕事も下り坂の37歳。バーで男を拾って寝てみても面白くない。でもバディは私を忘れていなかった。まだよりを戻せるかも……。

もちろん普通ならそんな発想は出てこない。30半ばも過ぎた彼女がこんな勘違いをするのは、昔の成功体験が染みついており、自尊心と自己評価が非常に高いことに加えて、今の自分から逃げ出したいと思っているからだ。

「成功した人気作家」のはずなのに、現実は落ち目のゴーストライター。「若くて美しいまま」のはずなのに、現実は老いが忍び寄る年齢。そんな「今」を受け入れられず、圧倒的な承認を求めてメイビスはバディのいる故郷に向かう。

文=大野 左紀子

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