「過去の栄光」に頼った独身女性に、突きつけられた「今」

シャーリーズ・セロン(Photo by Jason Merritt / Getty Images)


愛車の中で聴くのは、自分が一番輝いていた頃に彼とよく聴いたティーンエイジ・ファンクラブの『THE CONCEPT』。まさに過去への逃走だ。
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しかしメイビスにとって、後足で砂を蹴って出てきた退屈な故郷は、基本的に見下しの対象である。「クソつまらん町だわ、相変わらず」といった仏頂面で入ったバーで、同級生で小太りの男マットと出会う。

高校時代、ゲイと思い込まれて凄惨な虐めに遭い身障者となっているマットに、メイビスがあまり遠慮のない質問を浴びせたり、帰郷の目的をあけすけに話したりするのは、自分より相手が「下」だとみなしているからだ。「下」の者に別に見栄を張る必要もないと。

ハイスクールのカーストで言えば、バディはジョッカー(体育会系の人気者)、メイビスはクィーン・ビー(ジョッカーと付き合っている目立つ女子)で、マットはカースト最下層にいたターゲット(虐めの対象)だ。社会人になって久しい今はそれも関係ないのに、「過去の栄光」が頼りのメイビスの脳内で彼女はまだカーストのてっぺんにいる。
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地元で結婚し子供も生まれたバディとのやりとりにも、最初からズレが生じている。誘惑モードのメイビスが待ち合わせ時間を夜8時半と提案したのに対し、バディの答えは6時。指定されたのは色気のないスポーツバーで、バディは酒も飲まない。

良き家庭人となった元カレをなんとかその気にさせようとし、場違いなほど胸元の開いた服で出かけ、お世辞を言われて会心の笑みを浮かべ、早速マットに「彼も同じ気持ち」と報告するメイビスに、イタいのを通り越して同情的な気持ちすら湧いてくる。

バディの家に招かれ、二人の昔の思い出話を仕掛けてみるものの、逆に夫婦仲の良さを見せつけられ、バディの妻ベスの所属するママさんバンドのライブに誘われて行けば、自分とバディだけの曲だと思っていた『THE CONCEPT』が演奏される。

心から楽しそうにドラムを叩くベスを、悪魔のような形相で睨みつけるメイビスの心境は、「私の思い出を盗りやがってこのクソ女!」だろうか。

だがメイビスも、子持ちのバンドメンバーたちから決して良く思われていないことがうかがわれる。皆、それぞれ大人になり、振る舞い方をわきまえている中で、メイビスだけが大人になりきれないまま、かつての「女王様気取り」という残念な構図だ。
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文=大野 左紀子

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