「過去の栄光」に頼った独身女性に、突きつけられた「今」

シャーリーズ・セロン(Photo by Jason Merritt / Getty Images)


昔の恋人を若いフィアンセから奪還しようとヒロインが見苦しくジタバタする『ベスト・フレンズ・ウェディング』(1997)という作品がある。ジュリア・ロバーツの演じる主人公ジュリアンは、プライドの高さと自信過剰な点でメイビスと似ているが、既に仕事面での成功を手にしていた。

ヒロインを陰で受け止めるマットの役に当たりそうなのは、このドラマではルパート・エヴェレット演じるゲイのイケメンであり、そのきめ細かいサポートぶりは惚れ惚れするほどで、最後にジュリアンは輝くような笑顔を取り戻している。

そこからすると、14年後のメイビスの状況は全方位的にショボいと言っていい。だが、その冷え冷えしたリアリティこそが、この作品の肝と言えるだろう。

自分の思い込みとは真逆の展開になっていく中で、無駄な足掻きを続けるメイビス。しかし彼女の中に不安がないわけではない。それは髪をいじって抜くという無意識にしている行動に表れている。偶然会った母に実家に連れて行かれ、その癖を父に指摘されているが、彼女が両親に語るのは自分の妄想ばかりだ。

そんなメイビスを冷静に眺め、度々忠告するのはマット。片足が不自由でも地道に働き、オタク趣味を楽しみ、ガレージで熟成バーボンを作っている彼は、コツコツと時間をかけて成果を出していくという、メイビスがとっくの昔に諦めたことを実践している人だ。だがそのことの重要性にメイビスは気づけない。

だから最後に爆発したメイビスが、ドン引きする人々の前で盛大に悲惨な「見せ場」を作ってしまうのも、惨めな姿で救いを求める相手が昔から歯牙にもかけずにきたマットなのも、なるべくしてなったとしか言いようがない。

もちろんメイビスにとって、マットは当初に渇望していた「承認」ではなく、ズタズタになったプライドに貼るバンドエイド程度の存在でしかない。田舎町を嫌い、都会に出た彼女に憧れの目を向けるマットの妹サンドラも、同じだ。

何も知らないサンドラにだけかろうじて体面を保ち、故郷を後にするメイビスは、もう二度と過去に旅することはできないだろう。期せずして自らの退路を絶ったことで、彼女は遅ればせながらやっと「今」に向き合う。

連載 : シネマの女は最後に微笑む
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文=大野 左紀子

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