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2020.03.03

花王とスプツニ子!が導き出した イノベーションを生む「最強コラボ」の方程式

「理系」「希代の新しいもの好き」「コラボ好き」。花王の代表取締役とテクノロジーに通じた気鋭のアーティストの共通点である。次代をつくる2人がイノベーションを語るとき、勝ち続ける組織の原動力が見えてきた。


スプツニ子!(以下、ス):長谷部さんとお会いするのは、2019年11月、花王社内で講演させていただいて以来ですね。

長谷部(以下、長):ええ。花王の新しいイノベーション「Fine Fiber(*1)」が、繭の糸ほどの極細繊維で肌の表面に膜をつくる技術だったので、「エイミの光るシルク(*2)」という作品を発表されたスプツニ子!さんにぜひお話を、と。実はその際にデモンストレーションでお見せした技術が完成したんです。

:おめでとうございます!あのような画期的なプロダクトが生まれた経緯(いきさつ)をあらためて教えてください。

:「Fine Fiber」はビューティケアとして生まれた技術ではなく、オムツやナプキン開発における繊維を細くする研究から誕生したんです。研究が進んで極細が可能になったときに、「オムツに適用するよりむしろ皮膚の上でやったほうが楽しいんじゃないか?」ということで人がどんどん集まって、商品化まで行き着いた。第1弾はナイトケア製品として発売されましたが、肌の傷痕やシミなどを見えにくくすることもできますし、将来的には絆創膏のように薬を閉じ込めて傷口を治すなど、さまざまに応用・展開できるのではないかと考えています。

もうひとつ、「Created Color(*3)」も紹介します。こちらは「いまのヘアカラーのままでいいのか?」という問いがきっかけです。ヘアカラーというのは、実はこの100年の間、ほとんど変化がない。そこで「もっと安心・安全なヘアカラーはつくれないのか?」「このレベルの色合いで満足していいのか?」と自らに問うたわけです。スプツニ子!さんが専門領域としている「スペキュラティブデザイン(問題提起するデザイン)」と共通するかもしれませんね。

:花王は他企業とのコラボレーションも積極的ですよね。

:確かに他社さんを巻き込むのは得意かもしれません。「Fine Fiber」では、人の背丈を越える大型の機械から、手で持って操作できるハンディタイプにまでコンパクト化し、かつ、極少量の繊維を定量的に吐出する技術は世界を見渡してもパナソニックさんしかもっていないということで、独自のディフューザーを開発していただきました。

「Created Color」のほうは染料のクオリティをさらに上げるため、色材に関する分子設計や合成技術、高品質な量産体制をもっておられる富士フイルムさんと共同開発を続けています。既存の技術でできること・できないことを認知し、最強のコラボレーターを見つけるというのも、イノベーションには欠かせません。

:相棒を見つけて共同開発した後、プロダクトにして事業化する、というのは、“総合格闘技”のようなもの。と同時に、花王は社内でも総合格闘技をあちこちで行っているような……。

:確かに研究畑の人間が事業内容から販売まで考えたり、自らコラボレーションを進めたりする会社は珍しいかもしれません。弊社は「研究が出しゃばっていい」というルールになっていて、自分の興味の範囲内は自分のテリトリーなんです。

よく「人が考えられることはだいたい実現できる」といわれますよね。つまり「こんなことができたらいいな」という発想にこそ突破口があり、そのデザインに近づこうとする力が研究とマッチすると、イノベーションに結びつくのだと思います。

:私もひとつ提案させてください!毎朝のメイクがすごく面倒なんですが、例えばメイクした顔を撮影しておいて、毎朝そこに座っただけで細かいスプレーが3Dプリントみたいに噴射され、一瞬にしてメイクが完成するというのはどうでしょうか?(笑)

:それは素晴らしい。ただ、女性の研究員と話すと、「メイクは上手にできると気分が上がるもの。それをなぜ男性は絆創膏みたいに貼って剝がせるものにしたがるのか」と叱られることもあるんです(笑)。

:それは車の自動運転派とドライブ派みたいなもので、どちらも満足させられる選択肢が増えるというのは、素敵なことだと思います。

相手の面白さをリスペクトする



:長谷部さんは過去のインタビューで「イノベーションを生み出すのに最も大事なのは人である」と発言されていますね。

:イノベーションを生み出すのは機械ではなくて、想定外を生み出すイノベーター(人)です。そのような人を論理的な物差しで測ったら、イノベーションなんてそもそも生まれない。そこで、私だけでなく花王自体が脈々と受け継いでいる考えは、研究者に対して「クリエイティブの邪魔をしない」ことです。

:その人のクリエイティビティを信用するということですね。やはり人って「やりたい」と思う気持ちと自己実現とがつながっているときにいちばんパワーを発揮する。発想も大事ですが、「これを絶対に実現させる!」という狂気じみた思い込みもイノベーションには必須だと思うんです。

:確かに。先ほどの「Created Color」で言うと、世界最大手の企業に所属していた若手のイギリス人科学者が実現かなわず、弊社の一員となって始まったプロジェクトなんです。それから15年間、研究をマネジメントした人が私を含め3人いたけれど、誰も止めなかった。ひたすら信じて応援し、そして完成したんです。これはクローズドイノベーションに限らないことで、オープンイノベーションでも「相手の面白さをリスペクトする」というのが大事ですね。

:わかります。私も忘れられないコラボレーションがあって……。農研機構の瀬筒秀樹先生が遺伝子組み換え蚕の研究開発をされていて、簡単に言うと、クラゲやサンゴの遺伝子を蚕に入れるとシルクが光るんです。その研究を見てぴんときて、「一緒に作品をつくりませんか」と話しに行きました。

無事に許諾を頂いた私はすぐに京都に赴き、京都西陣織の老舗「細尾」の12代目・細尾真孝さんに「この遺伝子組換えシルクの素材を使って織物をつくりたい」と依頼しました。幸い「面白そうじゃない」と言ってくださったので、その日のうちに京都在住のファッションデザイナーの串野真也くんにも連絡して「一緒にデザインしよう」と伝えました。そうして完成したのが「エイミの光るシルク」です。

このコラボで特に面白かったのは、細尾さんがテクノロジーに目覚めたこと。もともと細尾さんは1年かけて織り機を改造し、世界標準幅の布を制作しました。その布が世界90都市のクリスチャン・ディオールの店舗の壁や椅子に使用され、数々のブランドやアーティストたちとコラボするようになったんです。

すでに複雑な形を織れる技術があった細尾さんは、「エイミの光るシルク」をきっかけに、「半導体チップなど電気を通す素材を織り込めば、西陣織がスマートテキスタイルになるかもしれない」と考え始めた。それでMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長だった伊藤穰一さんに紹介したところ、双方非常に気が合って、なんと細尾さんはそのままMITメディアラボのフェローになったんです。

:さすが、「理系キラー」ですね(笑)。

:数学者の両親を見て育ったのもあり、私自身、研究の話を聞くのが好きなんですよ。先日も渡り鳥の研究者に、北朝鮮と韓国の間にDMZ(非武装地帯)という人が踏み入ることのできないエリアがあって、そこが渡り鳥の楽園になっているというお話を伺いました。

皮肉にも、紛争や原発事故などで人が入れないエリアほど、動物が繁栄するそうなのです。そういう話を聞くとインスピレーションが生まれるし、次の作品に結びついたりもするんですよね。

磨いてばかりいないで、車庫から出そう



:スプツニ子!さんはこれまで、アートとテクノロジーを融合させた作品を通して社会問題を提起し、人の思考を促してきたわけですが、例えば衝撃的だった「生理マシーン、タカシの場合。(*4)」を振り返って思うところはありますか?

:「なぜ生理がこんなにタブー化され、語られないんだろう?」と思って作品にしたのですが、発表した2010年ごろはフェミニストを名乗る20代から30代の女性がほとんどいなかったんです。でも、ソーシャルメディアの影響でここ2〜3年の日本の女性の環境がガラッと変わっている感覚がありますね。

メディアも生理や女性の体について情報発信するようになりましたし、女性もこれまで胸に秘めていた思いを言葉にできるようになった。避妊用ピルの承認がアメリカより30年以上遅れた一方、バイアグラは半年で承認された日本だったけれど(苦笑)、いまがまさに変革のときなのではないでしょうか。

実は私自身も変革の時というか、テクノロジー×サイエンスのスピードが非常に速い現代において、美術館の枠を越えてできることがあるんじゃないか、と思うようになったんですよ。

:例えば、アートだけではなく、サービスやプロダクトを世に出したり?

:ええ。例えば、女性に特化したヘルスケア分野としての「FemTech(フェムテック)」は非常に面白いです。アメリカでは「CORA(コラ)」などの生理用品の定期配送のサブスクリプションサービスが盛り上がっています。

CORAは単に消費者にとって便利なだけではなく、利益の一部をインドやケニアなど生理用品が買えない人たちの支援に回したり、生活必需品が非課税なのに生理用品が課税対象になっていることに対する異議を唱えるために税をカスタマーに返金していたりする。サービスを提供しながら社会に変革を起こす─そういう起業家が周りで増えているんです。

:女性は世のスピードを見逃しませんね。弊社も磨いてばかりで車庫から出さないでいると、いつの間にか古ぼけた車になっている。それよりは外に出して、あらゆる可能性を社会で見極めてもらおうという発想があって、技術は早め早めに世に出すように心がけています。昨年末には、皮脂RNA(リボ核酸)のモニタリング技術(*5)を用いた新しい美容カウンセリングサービスの開発も発表しました。

:あの、あぶらとり紙にとった皮脂だけでRNAの遺伝子を解読できる技術でしたっけ。

:こちらも花王の皮脂RNA発現情報などと、プリファードネットワークス社のAI技術による予測モデルをかけ合わせています。例えばですが、使っている化粧品や飲んだ薬がどのくらい自分に適合しているか、いつやめたらいいのかをモニタリングできたらいいなと。技術として実装化されれば、医療分野や、日本の財政にも貢献できるかもしれません。日々使えるもので人の健康を地図のように描き表し、それをAIで分析して、肌状態の改善や予防に導く。そんな未来を目指して研究を進めています。

:遺伝子の研究でもシェアリングエコノミーでも卵子凍結でも、テクノロジーが世界を変えていますよね。テクノロジストやサイエンティストがアクティビスト的な動きをできつつあるというか、プロダクトサービスでありかつ問題提起ができる時代かなと。

例えばアメリカでAppleやFacebookなどの名だたるシリコンバレー企業が2014年に女性社員の卵子凍結に補助金を出す福利厚生制度を開始したんです。日本でも2013年に未婚女性の卵子凍結が認められ、私自身、考えた末に26個の卵子を凍結しました。その経験も含め、昨年末から生殖医療に関連する新しいサービスの起業準備を進めています。花王さんがいつかそのプロジェクトに興味をもってくれたらうれしいです。

:最強のコラボレーターになれるよう、こちらも準備しておかなくてはなりませんね。


スプツニ子!さんも驚く画期的新技術「Fine Fiber」。
1本の糸が生み出す、化粧品やスキンケアの未来について詳しくはこちら>>


*1「Fine Fiber」技術とは


高性能小型ディフューザーにポリマー溶液をセットし、一本の糸のような形状で溶液を肌に噴射することで、肌の表面に積層型極薄膜をつくる。直径1μmという極細繊維ヴェールで編まれる膜は、軽く、柔らかく、肌の動きに柔軟に追従し、膜と肌の段差が極めて少ないことから、剝がれにくく、肌に自然になじむ。

「Fine Fiber」高性能小型ディフューザーに至るまで


左から時計回りに、懐中電灯型、ピストル型、手羽先型、完成形。懐中電灯型、ピストル型はまさに手づくり。手羽先型以降は市場調査と、他社とのオープンイノベーションによって生まれた。

*2「エイミの光るシルク」


クラゲやサンゴの蛍光タンパクの遺伝子を組み込んだ蚕からつくられた「発光する繭」を原料に制作されたドレス。「エイミという女の子が片思いの彼のためのドレスをつくろうと、無数の遺伝子組み換え蚕を飼う」というストーリーをもとに、農研機構に依頼し、西陣織でドレスに仕立てた。黄色のフィルターを通して見ると、操作された遺伝子によって緑、赤、オレンジに発光。2015年4月発表。

*3 髪色を簡単に変えられる「Created Color」


パッチテスト不要、髪に負担をかけず皮膚は染まりにくいという画期的な技術。髪を黒くしているメラニン色素に着目し「黒髪メラニンのもと」を100%天然由来の原料からつくり出す技術を確立。これを配合した新しい白髪ケアを誕生させた。また、黒色だけでなく鮮やかで多彩な色合いをつくる染料「Moving Color」も開発した。

*4「生理マシーン、タカシの場合。」


女性特有の肉体現象である「生理」を再現するマシーン。シルバーのボディを腰の部分に回して装着、腹部側には鈍い痛みを伝える電極がついており、後部のタンクからは女性の5日間の平均月経量である80mlの血が流れるように設計されている。MVでは、スプツニ子!自身が「女の子の気持ちを本当にわかりたい」という欲求をもつ男の子「タカシ」に扮装し、マシンを装着して女友達と街で遊ぶというストーリーが描かれる。2010年6月発表。

*5 皮脂RNAモニタリング技術


DNA情報に基づいてタンパク質を生成するための設計図であるRNA(リボ核酸)は、不安定ですぐに分解されてしまい、活用が難しかったが、花王は世界で初めて皮脂から採取することに成功。そこから得られた情報を解析することで、美容製品のパーソナライズ化を目指す。


スプツニ子!◎1985年、東京都生まれ。アーティスト。東京藝術大学デザイン科准教授。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)在学中から、テクノロジーによって変化する社会を考察・議論するデザイン作品を制作。著書に『はみだす力』(宝島社)。

長谷部佳宏◎1960年生まれ。東京理科大学工学部工業化学科博士課程修了、工学博士。90年、花王に入社。基盤研究セクター長、エコイノベーション研究所長などを歴任し、2014年に執行役員。19年3月より代表取締役専務執行役員。


Promoted by 花王 / edit by Kaoru Hori / photographs by yOU (Yuko Kawasaki)

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