とはいえ、納税者がその「悪い行い」の代わりに「より良い」行為に移るのではなく、別の「悪い行い」にただ切り替えた場合はどうなるのか。まさにそのとおりの事態が、米国立衛生研究所(NIH)が出資して行われた新しい研究で示唆されている。電子タバコ(ベイプ)の使用に歯止めをかける目的で電子タバコ税を引き上げれば、従来型タバコの購入が増えるかもしれないというのだ。
経済学者たちは、悪行税に対する反応について、弾力性(ある変数が変化すると、他方の変数がそれに伴いどう変化するかという、反応の大きさを判断する概念)の観点から論じている。悪い行いを抑えるのが目的なら、税率をどのくらいまで引き上げれば消費が減るのかを割り出すことが肝心だ。
たとえば、米シンクタンク、ランド研究所の経済学者ローランド・シュトゥルム(Roland Sturm)は、「ソーダ税」を研究した際に、「わずかな課税では肥満は予防できない」と結論を下した。そして、行動に影響を与えるには、税率を1ドルあたり約18セントまで引き上げなければならないとした。
電子タバコについて研究する際にも、同じ概念が当てはめられている。6つの大学で構成された研究チームは、8つの州と、規模の大きい2つの郡で制定された電子タバコ税の効果を見るために、電子タバコの価格、電子タバコの売上、ならびに他のタバコ関連商品の売上を調査した。米国内の小売店3万5000店から収集した、2011年から2017年までのデータを確認したところ、電子タバコの価格を10%引き上げるごとに、売上が26%減少したことが明らかになった。一方で、その電子タバコ価格の10%値上げによって、従来型タバコの売上は11%上昇したのだ。
単純なことのように聞こえるが、話はそれほど簡単ではない。まず、こうした比較はまったくの同一条件下で行われたわけではない。電子タバコと言っても、使い捨て電子タバコもあれば、スターターキットや詰め替え用カートリッジなど多岐にわたる。
また、研究が指摘しているように、たとえ同じタイプの商品であっても、カートリッジやリキッドの数、ニコチン量が大きく異なる可能性がある。付随する税も、各電子タバコ商品のリキッド量に比例して課せられる税などと同様、千差万別だ。ほかにも従価税(価格に応じて税率が決まる方式)がある。他方、従来型タバコは、1本あたりの価格を換算して課税されるのが普通だ。