秀吉以来の人たらし
深遠な伝統芸能の世界の扉を現代の私たちに向かって開こうと、これまで文楽の世界には見られなかった企画を次々仕掛け、継続してきた一人の太夫がいる。
六代目竹本織太夫。 華やかで力強い芸風で人気と実力を兼ね備え、伝統の舞台で着実な成果を積み上げる。その一方で、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」などのテレビに出演し、前衛美術とのコラボレーションで話題を呼んだ「杉本文楽」の企画にも中心的役割を担う。地元大阪ミナミの小学校では、文楽の授業を20年近く続けている。
自らの襲名行事では当代のトップクリエイターを起用し、また、前代未聞といわれた3kmの「お練り」を敢行した。 博報堂ケトルの嶋浩一郎いわく、「博報堂マン6人分働く」。そのバイタリティはどこから来るのか。
襲名行事の発起人には、いまや大臣となった小泉進次郎やライフネット生命創業者の岩瀬大輔ら、政財界のリーダーも名を連ねた。
「本当に一所懸命やっていただけなんです。 当代一流の人達ですが、それは結果で、出会った時は、皆さんもまだ若くて、仕事もし始めて少し経って、という頃でした。いろんなことが実現するのは、『こんなんできたらいいですよね』ってつぶやいていたら、こういう人たちが叶えてくれたから」
謙遜に聞こえるが、周囲への感謝が自然に伝わり、人を動かすのだろう。
織太夫は、舞台を降りても、熱い。話し方も行動も、熱量がみなぎる。織太夫の「いろんなこと」に周囲が喜んで巻き込まれてゆくのは、ただ文楽を思う気持ちの強さによるだろう。後輩の太夫いわく「秀吉以来の人たらし」。
その行動力の源は何なのか。
「舞台人として愛されたいからです。愛されてなんぼです。演者に強烈な磁力、人を引き付ける磁力がないと、舞台というものは成り立たない。お客様は人生の貴重な時間を使ってきてくれる。だから僕たちも、自分の人生のその一期一会を全身全霊で勤めます。
中途半端なことはやりたくない。『明日のない舞台』を勤めると、よく言っています」