ビジネス

2020.02.20

ミレニアル世代を鷲掴み。モントリオール本拠の「SSENSE」の正体

SSENSEで行われたヴァージル・アブローによるインスタレーションに並ぶファンたち

カナダのモントリオールに本社を置く“ファッションEコマースの企業”と聞いて、特別ワクワクするものを想像する人は少ないのではないかと思う。

いわゆるファッションのEコマースはそれほど珍しくない。ラグジュアリー領域においては、リシュモン傘下の「Net-a-Porter」や「YOOX」、先日テンセントらから250億ドルを出資した「Farfetch」など大手が世界展開しているし、有名百貨店や人気セレクトショップもグローバルに対応していたりする。それに、モントリオールというのも、あまり話題になる街でもない。

しかし、昨年11月、その企業の話を聞いて、思わず年末の旅先にモントリオールを追加した。約15年前、3人の兄弟が創業した「SSENSE(エッセンス)」はいまやおよそ800人の従業員を抱えるビッグカンパニーとなり、その間ずっと、二桁成長を続けている。

好きなファッションを垣根なく


SSENSEの創業は2003年。それは、当時大学でコンピュータエンジニアリングを専攻していたラミ・アタラの卒論プロジェクトとして始まった。まだECがそこまで普及していなかった当時、ラミはサイトで服を販売して、そのポテンシャルの大きさに気づく。

その頃のファッション市場、特にラグジュアリーにおいては、百貨店が顧客もブランドもおさえていた。しかしそこにあるのは“トラッドな”ラグジュアリー。20代前半のラミたちが求める、ストリートとカルチャーをミックスしたような“新しい”ラグジュアリーはなかなか手に入れることができなかった。

ラミはそこに目をつけ、エッジィなカルチャーマガジンやセレクトショップの世界観とネットのスケールと掛け合わせることを思いついた。

そして、二人の弟、ファイナンスと経済学を修了していたフィラスと機械工学を学んでいたバッセルを誘い、本格始動。サイトを立ち上げて間もなく、モントリオールに小さなセレクトショップもオープンした。今でこそ、ECとリアル店舗、オンラインとオフラインの融合が語られるが、彼らは当時から、その垣根なく展開していた。

SSENSEを創業した3兄弟
(左から)SSENSEを創業した3兄弟。左からCOOのバッセル、CFOのフィラス、CEOのラミ・アタラ

今も変わらないSSENSEのスタンスは、知名度や歴史のある王道のブランドと気鋭のデザイナー、さらにはストリートやスポーツの要素をミックスし、「ラグジュアリー」や「コンテンポラリー」や「アバンギャルド」といった境界を設けずに展開すること。自分たちのセンスで、思いがけない組み合わせや偶然の出会いを提案する。そのセレクトショップ的なECも、その頃は珍しかった。

「自分たちが求めるもの」の実現のために起業した彼らは、自らが雑誌の影響を受けてきた経験から、ユーザーのインスピレーション源となるコンテンツの発信にも力を入れてきた。

「顧客を動かすのはストーリーだ」とは最近よく耳にするが、彼らはそう言われるようになるずっと前から、デザイナーやアーティストの取材記事などを展開。その効果は明らかで、コンテンツに接触したユーザーの方が再訪率がよく、滞在時間が長いという結果を得ている。


SSENSEのトップページ(左)では、商品よりもエディトリアルコンテンツが目立つ。記事は日本語にも対応(右)
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文=鈴木奈央 写真=SSENSE提供

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