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2020.02.20

ミレニアル世代を鷲掴み。モントリオール本拠の「SSENSE」の正体

SSENSEで行われたヴァージル・アブローによるインスタレーションに並ぶファンたち


そうしてカルチャーやコミュニティを醸成しながら掴んできた顧客は、74%が18〜34歳のミレニアル世代とZ世代。“トラッドな”ラグジュアリーブランドが、喉から手がでるほど欲しがる層だ。そして、その他にない顧客層を武器に、「グッチ」や「サンローラン」など大手をラインナップに加えながら成長を続けている。

同時にファッション業界における存在感も大きくなり、ラミにはLVMHプライズなどのデザインアワードの審査員の声がかかるようになった。また、「SSENSEに取り扱ってもらうこと」は気鋭ブランドの登竜門やステイタスとなるという好循環が生まれている。

「体験」に重きを置いた実店舗


SSENSEは2018年5月に、新たな旗艦店をオープンした。設計を手がけたのは、世界で多数の美術館を手がけている建築界の巨匠、デヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクト。店はモントリオールの歴史地区にあり、外観の改装が許されないため、チッパーフィールドはビルの内側にビルを作るという2層構造で、コンクリートとメタルからなるモダンな空間を実現した。

モントリオールにあるSSENSEの旗艦店
モントリオールにあるSSENSEの旗艦店。建築そのものを見にくる人も多いという

5階建てではあるが、商品をずらり並べているのではなく、厳選したアイテムを週替わりのキュレーションで展開。また、2フロアをフィッティングスペースとして割いている。そこでは、ユーザーがオンラインで選んだ服を試せる“パーソナルスタイリング”を提供しており、誰でも無料で予約ができ、1日に100件まで受け付けている。

天井が高く、フレキシブルに使える1階フロアでは、様々なイベントを行っている。2018年7月、ルイ・ヴィトンのメンズウェア・アーティスティック・デザイナーとしても有名なヴァージル・アブローが「自宅アトリエを再現する」インスタレーションを行うと、アブローに会って、限定アイテムを手に入れるため2日前から並ぶファンもいたという。

SSENSE旗艦店で行ったヴァージル・アブローのポップアップ
SSENSE旗艦店で行われたヴァージル・アブローによるインスタレーション「The CUTTING ROOM FLOOR」

ほかにも、新生ボッテガ・ヴェネタ、ラッパーのドレイクのScorpionコンサートツアーグッズなど、旬な人やブランドとのコラボレーションを随時展開。実店舗を「ものを売る場所」としてだけでなく、「SSENSEらしさを体験する場所」としても活用することで、“モノよりコト”を好むミレニアル世代を惹きつけている。

SSENSEは現在、4つの言語でECを展開し、150を超える国々に配送するが、店舗はこのモントリオールのみ。別都市への出店について、シニアコミュニケーションズディレクターのディアナ・チョウは、「小売の体験や海外展開は重要だが、ただたくさん出店したいということはない。いい場所を見つけ、今と同じような作り方をしていきたい」と話す。
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文=鈴木奈央 写真=SSENSE提供

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