ビジネス

2020.02.20

ミレニアル世代を鷲掴み。モントリオール本拠の「SSENSE」の正体

SSENSEで行われたヴァージル・アブローによるインスタレーションに並ぶファンたち


サステナブルな成長とコミュニティへの還元


SSENSEは、あらゆる業務を内製化している。Eコマースに関わる物流やカスタマーケアもちろん、スタイリングや撮影、編集などのコンテンツ制作、新たなモバイルアプリなどの開発も一貫して自社で行っている。テクノロジー部門に150名以上を抱えると聞くと、まるでテックカンパニーだ。また、インベスターなどからの出資を受けず、プライベートカンパニーであることによって、独自性を保っている。

SSENSE マガジン
年2回刊行しているマガジン。複数の表紙があり、左側は水原希子を起用

話を聞いていると、EC展開も、テクノロジーの活用も、コンテンツを使った顧客獲得も、業界のトレンドを先取りしてきているが、その成長は、野心むき出しになし得てきたという感じがしない。むしろ「好きなことをやっていたら、ここまで大きくなった」というオーガニックなニュアンスが漂う。

実際、チョウによれば、SSENSEはサステナブルな経営をし、地域やコミュニティに還元したいと考えているという。それこそ、“ソーシャルグッド”を重視するミレニアル世代とZ世代が好むスタンスだ。顧客の74%がその世代だが、従業員についてもおよそ800人のうち約70%が同世代。その一致は、SSENSEの成長のカギといえる。

そして、その狙い通り、SSENSEはモントリオールという街にいい影響を与えているようだ。あまりクリエイティブな仕事の少なかったこの街からは、かつて多くの若者が流出していたが、「SSENSEがあるから」と街に残る人が増えているのだという。

こうした企業のあり方は、かつてフランスの植民地だったこの街であってこそのように映る。大量消費社会の象徴のような隣国アメリカの影響を受けつつも、数字的な成功だけでなく文化的要素を重視するヨーロッパらしさを備えている。


モントリオールにあるSSENSEの本社。撮影スタジオもこの中に完備している

ところで、ファッションのECといえば、この数年、プラットフォームに頼らないD2Cモデルが盛んだ。「SSENSEでは売らない」というブランドが増える懸念はないのだろうか。

そうと聞くとチョウは「展開先を絞るブランドも出てきている」とその傾向を認めつつも、「SSENSEのキュレーションや編集はブランドから信頼がある」と自信を見せる。つまり、ブランドとの付き合いも、顧客についても、しばらく見通しが良さそうだ。

ちなみに日本の売り上げは全体の5%を占め、アプリのダウンロード数は世界で4番目に多く、最も成長しているマーケットの一つだという。次のリアル店舗は日本になるだろうか。その時はどの街で、誰が設計を担当するのだろうか。想像するだけでも、今後の展開が楽しみだ。

文=鈴木奈央 写真=SSENSE提供

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