しかし、問題はこのような対策でも感染拡大が防げず、さらなる事態の悪化を招いてしまうことだ。米国のジョンズ・ホプキンス健康安全センターの上級研究員、ジェニファー・ヌッゾは「感染拡大を食い止めるために強行措置が取られた結果、逆効果となってしまった例はいくつもある」と話す。
最も厳格な措置がとられた中国の武漢では、周辺の都市との行き来が完全に遮断された。それに伴い60カ国が中国への渡航を制限した。民間航空会社も中国便の運航を停止し、バルセロナで開催予定だった見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」が中止になるなど、大規模カンファレンスの中止も相次いでいる。
ムーディーズはこれらの感染拡大防止措置により、世界のGDP成長率が最大0.3%引き下げられ、被害額は2000億ドルを突破すると予測した。これまでの対策で被害の拡大が防止できるとすれば、ありがたいことだ。しかし、問題はそれほど単純ではない。
ヌッゾによると武漢で実施された都市の閉鎖により、状況はむしろ悪化したという。なぜならウイルスに感染した人々を閉じ込めることで、感染拡大が進んでしまったからだ。正しい選択肢は、隔離にフォーカスしたアプローチだったと彼女は述べている。医師への報告を正しく行い、都市の衛生環境を高めるべきだったとヌッゾは指摘した。
クルーズ船のダイアモンドプリンセス号の事例でも、同じことがいえる。3700人を乗せたクルーズ船は日本の保健当局によって、2月初旬から横浜港で完全に隔離された状況に置かれた。通常の状況であれば、乗客は検疫を受けた後、感染していなければ下船を許される。しかし、プリンセス号では全員が船内に隔離されたままにされ、200人以上の乗客や乗員に感染が広がってしまったのだ。