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2020.02.25

神戸市が「国連拠点」を誘致 決め手は自治体らしからぬフットワーク

左からグレテ・ファレモ国連事務次長兼UNOPS事務局長、久元喜造神戸市長(C)UNOPS


この話を聞いてチャンスだと思った私は、すぐに久元喜造市長に報告して、翌月21日にスウェーデンで開かれたUNOPS/GIC開設式典に参加した。地元の自治体や起業家たちがGICをどのように受けとめているかを知りたかったからだ。予想は的中する。地域のエコシステムやコミュニティにGICは見事に溶け込んでいた。

出張から帰った私は兵庫県と相談して、神戸開設の条件として示されていた、GIC施設を地元自治体で準備するという旨を国連側に伝えた。その2週間後の11月28日に、神戸市とGICがMOU(基本合意書)に署名して、誘致劇は幕を閉じた。


スウェーデンでのGIC開設式典に参加した神戸市新産業課長の多名部重則(左)

即断するしか選択肢はなかった


後に明らかになるのだが、この「フットワークの軽さ」が、国連に高く評価されたという。駐日事務所との初めての対話から、1カ月もたたないうちのスウェーデン視察。そして誘致決定まではたったの48日。年単位の仕事になりがちな国連機関の誘致としては、異例の速さだった。ライバル都市が現れる前に決めたいという思いと、UNOPSの考えや地元への波及効果がわかれば、それは即断するしか選択肢はなかった。

UNOPS駐日事務所代表の千葉は、「他にも政府機関や他の自治体にGICの意向を伝えてきたが、神戸市の理解と行動のスピードは群を抜いていた。イノベーションのエコシステムは次々と変化していくので、敏捷に動けるパートナーが必要だ。合意までの迅速な行動で神戸市がパートナーにふさわしいと判断した」と話す。

逆に、私が驚いたのは、国連側のスピードだ。国連といえば官僚主義で意思決定に時間がかかるイメージを持つ人も多いと思う。ところが今回、神戸市の誘致方針をUNOPSに伝えると、1カ月もたたずMOU締結に至る。このような機敏な気風を持つからこそ、援助現場に新しいテクノロジーを活用しようとする精神を生んでいるに違いない。

ともあれ、神戸市のGICは、今年9月に、世界で3番目の拠点としてオープンする。今春には、SDGs上の課題(チャレンジ)が発表され、スタートアップの募集も始まる。その中から15社がGICのプログラムに採択される予定だ。国内外からどのようなスタートアップが集うのか、それを目の前で見られるのが楽しみでならない。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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