ビジネス

2020.02.19

乳がんと闘わなくてもいい未来

リリーメドテックCEOの東志保

「Forbes JAPAN」の起業家ランキング特集にて、毎年掲載している「日本のスタートアップ大図鑑」。国内有数のベンチャー投資家約50人にアンケート取材を行い、2020年に注目するスタートアップについて200社を一挙掲載。今回、200社の中から特に注目すべき企業を3社、ピックアップした。2社目は乳がんの検査機器「リングエコー」を開発するリリーメドテック。


「結婚、出産、子育てなど、人生のさまざまな選択に迫られる世代の女性。彼女たちの選択肢が乳がんで奪われないようにしたいんです」

こう語るリリーメドテックCEOの東志保は2016年、当時東京大学教授で医療用超音波の研究者だった現CTOの東隆と共に、乳がん検査機器「リングエコー」を開発する同社を設立した。彼女が目指しているのは、世界に広がる手術支援ロボ「ダ・ヴィンチ」のような存在だ。

乳がんは、世界で女性が最もかかりやすいがんで、30代後半から40代の子育て世代に多い。早期発見で生存率は高まるが、安全で確立された検査方法がない。現在、世界で最も普及しているマンモグラフィ検査は、痛みや放射線被ばくの恐れがあり、若い女性に多い乳房のタイプではがんの判別が難しいなど課題が多かった。

同社のリングエコーは、超音波振動子をリング状に並べて使用することで、それらの欠点を克服し、再現性の高い3D診断画像を撮影可能にした。2年以内に量産化体制構築と医療機器承認を目指している。

医療機器の製品開発は、スタートアップにはハイリスクだ。しかも1億円弱の大型検査機器となれば、製造委託し量産化体制を整えるのは容易ではない。しかし、乳がん検査機器の市場にこそ、ベンチャーの勝機があると東は踏む。世界のマンモグラフィの市場規模は18億ドルほど。シェアの過半数をホロジックという女性のヘルスケアに特化した企業が占め、GEやシーメンスといった業界最大手が追う。男性には馴染みが薄い市場で、社会的関心の低さからか、競争は激しくない。

もともとエンジニアだった東がCEOを引き受けることになったのは、高校生のときに脳腫瘍で亡くなった母親の存在がある。同社のミッションに共感し、大手企業を辞めて参画した優秀な社員には女性も多い。完全実力主義のもと、意欲の高いチームができたと東は胸を張る。見据えるのはその先だ。

「世界で乳がん患者は増えていて、新しい検査機器のニーズは高い。AI画像診断支援や、検査と同時に治療する装置の開発、医師が少ない新興国向けの遠隔診断サービスも考えられる。やりきったと感じられるまで、突き進みます」


東志保◎1982年、東京都生まれ。電気通信大学卒、米アリゾナ州立大学工学部修士課程修了。JAXAや日立製作所などを経て、2016年5月に同社を設立。

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「病気をアプリで治療?日本初「治療アプリ」誕生へ」

文=成相通子 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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