海外ではラルフローレン、アルマーニ。日本はなぜ?
前回大会2016年のリオデジャネイロ五輪では、各国のスタイリッシュな公式服が話題になった。アメリカ代表はポロラルフローレンが、イタリアはエンポリオアルマーニ、スウェーデンではH&Mが公式服の制作にあたった。その中で日本は公募から選ばれたデザインを高島屋が製作。今回は紳士服のAOKIが手がけた。
ネット上では「どうして日本出身のデザイナーに依頼しないのか」という声が上がっている。一方で、92年バルセロナオリンピックでは、三宅一生がリトアニア代表選手団の公式ユニフォームをデザインしたケースがある。他にもヨウジヤマモトはスポーツテイストのデザインを手掛けていたり、川久保玲率いるコム デ ギャルソンはスポーツウェアメーカーとのコラボを発表したこともある。世界的に活躍する日本人デザイナーが多くいるにも関わらず、不思議である。
2016年リオデジャネイロオリンピックでのオーストラリア選手団公式服 (GettyImages)
──どうして日本の公式服デザインにはデザイナーが起用されないのでしょう。
JOCは過去に、森英恵、芦田淳、高田賢三らを起用したことがあります。その頃は、デザインと製作を分離し、デザインだけ著名なデザイナーに頼み、製作業者は別で選んでいました。しかし、2004年のアテネ大会を最後にそうしたデザイナーの起用がなくなり、デザインと生産一体型のプロポーザル方式の公募が行われるようになりました。理由については諸説あります。
今回は「起用しなかった」のではなく、デザイナーとの交渉がまとまらず公募になった可能性がある。というのは、2017年に、東京大会の公式服を某有名デザイナーに依頼したが断られ、別のデザイナーと交渉中という話を聞いたからです。あくまで伝聞ですが、結果的に著名なデザイナーがデザインしなかったことが「依頼しなかった」こととイコールでないということは指摘しておきたいと思います。
ちなみに、諸外国では、著名なデザイナーやブランドの起用が相次いでいますから、どうやって実現に漕ぎつけているのか学ぶ点はありそうです。
──公式服は注目度が高いわりに、私たちも問題点をきちんと把握していないことが「進化が見られない」と感じる理由なのだと感じました。今後、日本の五輪公式服のデザインについて、どのような考え方が必要でしょうか。
まず、JOCは、JOCの役員が大半を占める選考委員会で公式服を決める慣習を改めた方がいいですね。門戸が広く開かれているとは言えない公募のあり方にも検討の余地があります。その上で、もっと諸外国に目を向けるべきです。
公式服のカジュアル化・多様化はどこまで進んでいるのか、著名なデザイナーやブランドにどうやって打診しているのか、広報にはどういう工夫があるのか、学ぶべき点は多いはずです。何でもかんでも「外国では」と言うのは好きではありませんが、多くの国で実現できていることが日本で実現できていないのは事実なので、学べる点は学んで生かすに越したことはないでしょう。
安城寿子◎服飾史家。阪南大学専任講師。JOA(日本オリンピック・アカデミー)会員。お茶の水女子大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。博士(学術)。著書に『1964東京五輪ユニフォームの謎』(光文社新書、2019年)、共著にDressing Global Bodies (Routledge, 2019)などがある。