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新規事業を開発しなければならない。できるだけ早く、たくさん。これが多くの企業が直面している喫緊の課題であろう。しかし、この課題を乗り越えられる企業は一握りだ。なぜなら、日本のほとんどの企業は事業計画→企画→仕様決定→開発→完成という段階を踏む「ウォーターフォール型」のくびきから逃れられないからだ。

これでは、開発・製作が長期化するばかりか、プロトタイプの段階で利用者に試してもらい、「顧客視点」を得てアジャストもしくは方向転換することも難しくなる。つまり、時間とコストがかかるだけでなく、「ハズす」リスクも高くなるのだ。



新規事業を高速で開発するため、「ウォーターフォール型」ではなく、「アジャイル型企画開発」で新たな一歩を踏み出した者がいる。

それは、人材ビジネス業界で30年の歴史を誇る、パーソルキャリアのサービス企画開発本部サービス企画統括部の大澤だ。採用市場に対峙する彼女の想いはただ一つ。「忙しい人事の皆様が少ない工数で新卒・中途入社者の受け入れ支援・定着支援をできるようにしたい」。

生み出した商品は「HR Spanner(エイチアールスパナ―)」。新卒・中途入社者のオン・ボーディング(職場定着)を支援するシステムである。

今、採用マーケットは求職者が有利な売り手市場であり、少子高齢化の影響を受け今後も企業の採用難が続くと予想されている。そこで注目されているのが職場定着を促す施策だ。

「パワーとコストをかけて採用したからには、職場に定着して一刻も早く戦力になってもらいたい」というわけである。しかし、実行するにはハードルが高い。人海戦術的な側面が多く、定期面談を実施したりメンターをつけたりと、人事担当者に大きな負担がかかる。よって、実施できているのは一部の企業だけだったという。

「デジタルの力でどうにか解決できないか」。大澤はプロジェクトを進める上で、パートナーにKDDIを選んだ。KDDIには、KDDI DIGITAL GATEと呼ばれる、クライアントのDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するビジネス開発拠点があり、デザイン思考を用いたワークショップやアジャイル型企画開発手法の一つ“スクラム“を用いたプロトタイプ開発を行なっている。

「当社は新規事業開発に不慣れでした。そこで、単にシステム開発だけでなく、『新規事業開発への知見・経験を得ることができる』という視点でパートナーを探していたところ、KDDIに行きつきました。プレゼンをしてくださった全ての方々から、ユーザー起点で『選ばれる商品、使われる商品、使い続けてもらえる商品にするためのモノ作り』を徹底的に追求している姿勢を感じましたし、さらにそれを裏付ける技術や実績もありました」


パーソルキャリアの大澤侑子


「他社からも素晴らしい提案をいただきましたが、KDDI DIGITAL GATEの“人”とそれに紐づく“知見”や“チームとしての実力”を超えるものはありませんでした。プロダクトオーナーの私の足りない部分を補ってくれる、導いてくれる、そして自身の成長も見込める。本当の意味で“パートナー”と呼べる。迷うことなくKDDIさんを選択しました」

KDDIに決めた後は速かった。今回のプロジェクトでパートナーを務めたKDDI DIGITAL GATEの宮永は振り返る。「最初に大澤さんからご相談いただいたのが12月です。その後、ワークショップを1月の後半から始め、ワークショップ終了から1カ月でプロトタイプ開発までをやり切りました」。

何が起こったのか、順を追ってみたい。

10営業日でプロトタイプが完成

まず、大澤らパーソルキャリア社員を含むプロジェクトメンバーは、2日間のワークショップを実施した。ワークショップではユーザー中心のサービス体験をデザインする。ユーザーの体験を観察し共感することで、ユーザーの潜在的な課題や価値を探索したという。

ユーザー中心のサービスデザイン体験とはどのようなものなのか? 

例えば、コンビニエンスストアにある「あえて冷やしていない」水やお茶。これは、「体を冷やしたくない」という女性や高齢者の隠れたニーズに開発側が気づいた結果だ。消費者、ユーザー視点を“徹底的”に学ぶのである。

次はスクラムでのプロトタイプ開発。最初の5営業日で、ワークショップで創出・評価したサービスアイデアを基にしたプロトタイプを完成させた。その後、ユーザーフィードバック期間を5営業日で実施した。大澤が想定顧客、今回は企業の人事担当者にアポイントをとり、実際にプロトタイプを使ってもらい意見や感想を集めていった。インタビュー対象者は13名にも上り、業界別・企業規模別のデータを集めることができたという。その後この結果を反映したブラッシュアップ版を5営業日で作り上げ最終的なプロトタイプが完成した。

大澤は10営業日という開発期間についてこう語る。「ウォーターフォールでの開発しか経験していないわれわれにとって、初めは10営業日で何ができるのか疑問でした。普通の進め方だと仕様書もできていない状態だと思います。しかし、目の前に動くものがすでにある。この新鮮さに驚きました」。

プロトタイプの開発を担当したKDDI DIGITAL GATEの佐野は10営業日で開発できた理由をこう解く。「仕様を作るのは誰かにお願いすることになります。つまり伝言ゲームです。これでは無駄とリスクが生じます。そうではなく、『検証したい課題』を“直接”話し合い、意見をもらいながらプロトタイプを作る。それをすぐさま大澤さんにレビューしてもらい、結果を見てさらにブラッシュアップしていく。それを1日1回×10営業日分繰り返せば自然と完成します」と。

佐野はまた、「あくまで、検証に必要なものを作っただけで全てのシステムを作り上げたわけではない」と補足するが、従来のウォーターフォール型の開発であれば、企画を決め、仕様を決め、開発し、テストをし、と各手順をがっちり固めながら進めていくので検証に必要なシステムを開発したとしても10営業日では無理な話である。


KDDIの佐野友則


かつての「モノを作れば売れる」時代では、仕様を決めて正確に製造できるウォーターフォール型が有利であった。しかし、モノやサービスが溢れ、ユーザーニーズが多様化している今は事情が違う。だからこそ、「アジャイル型企画開発」を選択する企業が増えているのかもしれない。ニーズがどこにあるか見えないからこそ試さねばならない。必要最小限なものを作り、ユーザーに試してもらい、ブラッシュアップしていく。「見えない未来をユーザーの声を聴きながら探っていく」。それがアジャイル型企画開発である。

大澤はこの後、ブラッシュアップ版を使い、再び顧客にインタビューを実施。さらに精度の高い反応をもって、事業の可能性をマネジメント側に報告することができたという。今後、さらに新しい事業を開発していくうえで、高速で判断していくやり方を身につけたことが会社にとっても大きなメリットになる。

「共創の時代」の一つの答え

今回の開発を通じて、プロトタイプ以外にも得たものがあると大澤は振り返る。「プロダクトオーナーである私が、こういう風な依頼の仕方をするとエンジニアは走りやすいんだな、走りにくいんだな、ということがわかりました。やって欲しいことだけでなく、やらなくても良いことも明確にしてお願いする、そのようなコミュニケーションの型を学ぶことができました。その成果として実際に社内のエンジニアやデザイナーとの意思疎通がスムーズになりました」。

「HR Spanner」は現在β版まで進んでおり、さらなるブラッシュアップを目指したユーザーインタビューを実施した後に製品版としてリリースする予定になっている。

インターネットや携帯端末の進化に伴い、ICT(情報通信技術)の活用がビジネスの成功を導く一つのキーとなっている。IoTや5Gといった新しいテクノロジーが次々と生まれており、ICTへの理解は、今後も重要性を増してくるであろう。

宮永は今後の世界について、こう展望している。「デジタルの技術に関してはどんどん新しいものが出てくると思います。だからこそ人々がサービスを選べる時代になっています。反対に、選ばれなければどんな素晴らしいサービスでも価値はない。技術だけでは限界があるのです。人が求めるものを理解して、そこにサービスを提供し続けることが重要とされる世界になっていくと考えています」。


KDDIの宮永峻資 

今後、ユーザー視点でものを作るためのデザイン思考や高速でプロジェクトを回すためのアジャイル型企画開発がますます必要となっていくであろう。しかし、大切なことは従来のやり方にとらわれないこと。

デザイン思考もアジャイル型企画開発もいつかは古いものになるかもしれない。目の前のことにとらわれていては新しいことはできない。そう、皆、わかっているができない。だからこそ自社とは違う角度から社会を見ることができるパートナー、ゴールまで諦めず、力強く伴走してくれる存在は必要になってくる。KDDI DIGITAL GATEの中にいて、共創の時代が本格的に到来したことを感じた。答えのない時代だからこそ。


「HR Spanner」
https://hr-spanner.jp/lp/

「KDDI DIGITAL GATE」
https://biz.kddi.com/digitalgate/


大澤侑子(おおさわ・ゆうこ)◎パーソルキャリア サービス企画開発本部 サービス企画統括部 エキスパート。京都大学経済学部を卒業後、大手総合人材サービス会社・経営コンサルティング会社での勤務を経て、2013年に株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア)に入社。人材紹介・転職メディア関連事業の事業企画を担当したのち、2019年より現職。2019年より一橋大学大学院経営管理研究科 経営管理プログラムに在籍中。

佐野友則(さの・とものり)◎KDDI 経営戦略本部 KDDI DIGITAL GATE マネージャー。2014年にKDDI中途入社。入社後、auでんき・au HOMEなどのコンシューマー向けサービスの開発立ち上げに従事する。パブリッククラウド×アジャイル開発チームのスクラムマスターを主に担当する。2018年9月より「KDDI DIGITAL GATE」の立ち上げに参画し開発チームのリーダーとして、サービス開発やアジャイル開発ワークショップ等を通じてお客様のデジタルトランスフォーメーション実現を支援している。

宮永峻資(みやなが・しゅんすけ)◎KDDI 経営戦略本部 KDDI DIGITAL GATE OSAKA ビジネスデザイナー。KDDI入社後、大手企業のNWやアプリケーションなどの設計・構築を行うエンジニア部門に従事。2015年よりIoTなどを活用した法人企業向けKDDIサービスの企画及び立ち上げ、提案・構築、導入までを手がける。2018年9月より「KDDI DIGITAL GATE」の立ち上げに参画し、ビジネスデザインを担当。2019年9月「KDDI DIGITAL GATE OSAKA」立ち上げに伴い、関西を中心にビジネスデザインを担当し、延べ150回以上のワークショップを行なっている。

Promoted by KDDI / text by Toshiharu Toda / photographs by Toshiharu Sakai

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