ビジネス

2020.02.20

「ネクスト・レンブラント」に学ぶ、血の通ったデータ活用の姿

「ネクスト・レンブラント」(動画より)

広告/マーケティングの世界では、「データ・ドリブン・マーケティング」などの用語も頻繁に聞かれるようになり、何年か前からデータ活用の波が押し寄せて来ている。

広告コミュニケーションにも、データ活用をベースにしたものが多く見られるのだが、「人の心を動かす」必要があるので、データをそのままの形で出すケースは少ない。送り手側では、「データの駆使」について、多くの人が体感できるような施策を模索している。

その実例として、2016年のカンヌライオンズで、クリエイティブ・データ部門グランプリなど多数受賞した「ネクスト・レンブラント」を挙げたい。この受賞作は、オランダの世界的金融機関ING(Internationale Nederlanden Groep)によって実施されたものだ。



自国オランダを代表する巨匠であるレンブラント。この著名な画家が、「もし次に描くとしたら」どんな絵になるのか? 特に絵に関心がない人でも興味を惹かれるようなテーマに、データを駆使して応えるというプロジェクトだ。

没後347年目にデータがつくり出した新作


まず、レンブラントの346作品を詳細に分析し、構成の仕方から絵の具の盛り具合までをデータ化した。例えば、鼻の部分の絵の具の盛り方は、地形を表す「等高線」のごとく表された。

それらのデータを元に、最新の3Dプリンターを使ったデジタル・ペインティングによって、「次のレンブラント作品」を、本人の没後347年目につくり出したのだ。出来上がりとしては、「確かにレンブラントの次の作品は、こんな風になるかもしれない」と思わせるような1枚となっている。

この絵は、アムステルダムの美術館に展示され、同時にウェブ上でも製作過程を公開し、一般の人々でも詳細に見ることができるようにした。冷たい印象を持たれがちなデータ活用を、300年以上前の巨匠の絵画を素材にすることで、見る人が「体感できる」形で表現した見事な事例だろう。

では、なぜ銀行がこんなことをするかと言えば、INGは本業で、数々の新しいテクノロジーを導入し、それによってデータを駆使して、「最もイノベーティブな銀行」を標榜しているためだ。

そのINGのビジネス上のビジョンの認知や理解を推進するための施策が、この受賞作だったのだ。

血の通ったデータ活用


このINGの「ネクスト・レンブラント」の事例から得られるヒントも、日常の仕事や生活のなかでのコミュニケーションに活かせそうだ。

それは、ひと言で言えば、「血の通ったデータ活用」だ。いまや、組織/チーム運営には、何らかのデータ活用は必須だろう。ただし、データをそのままの形で部下やチームメンバーにぶつけたのでは、効果は覚束ない。

売上目標やKPI達成度などのデータを元に指導をする場合も、そのことからどんな対策が考えられるのか、何に気を付けて業務に励めばよいのか、時にたとえ話なども交えて話すことを心がけたい。

成績アップについて子どもと話すときも、数字だけで話すのではなく、具体的な行動や気持ち、あるいは自分が子どものころの思い出話なども交えて、話が体感できる形を心がけるとよい。

データは存分に活用すべき時代である。しかし、データ活用は行っているのに、上手く行かないケースはけっして少なくない。ポイントは、データに「如何に血を通わせるか」「いかに体感できる形でデータを活用するか」ということではないだろうか。

連載:先進事例に学ぶ広告コミュニケーションのいま
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文=佐藤達郎

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