まるで戦場にいるような感覚、ワンカット映像で描く「1917」の魅力


その後、デジダル技術の進化により、フイルムに代わってビデオカメラでの撮影も一般的となり、時間の制約を受けることなく、正真正銘のワンカット作品も登場するようになる。筆者が印象に強く残っているのは、ドイツ映画の「ヴィクトリア」(2015年)という作品だ。

「ヴィクトリア」の舞台は夜明け前のベルリンの街で、この街に越してきたばかりのスペイン人の女性が、偶然の成り行きから銀行強盗に巻き込まれていくというクライムストーリーだ。上映時間140分、午前4時過ぎから始まる物語は、朝を迎えたベルリンの街を歩く主人公の姿で終わる。つまり上映時間と物語の時間がほとんどリンクしているのだ。映像体験としては、ワンカットの作品でしか味わえないスリリングなものがあった。

また、「ワンカット映像」で、近年高い評価を受けた作品としては、第87回のアカデミー賞作品賞を受賞した「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)がある。この作品では、最後の象徴的な一場面を除いては、全編がワンカットの長回しで撮影されたようにつくられていた。

「1917 命をかけた伝令」も、全編がワンカットではなく、「ワンカット映像」。アカデミー賞のレッドカーペットでのぶら下がり取材で、図らずも監督のサム・メンデスが「最長の長回しは8分間だった」と明かしていた。細かい長回しを巧みに繋ぎ合わせながら、切れ目を感じさせない驚異の映像にしているわけだ。

実は、サム・メンデス監督は、「007 スペクター」の冒頭シーンで、かなり派手な「長回し」の撮影を敢行している。メキシコシティの死者の日に行進する巨大な髑髏の人形のアップから始まり、祭りの広場を行く男女にカメラを向け、そのまま建物に消える彼らを追う。

男性は変装したジェームズ・ボンドで、彼は屋上へと上り、隣のビルにいるテロリストを銃で狙う。ここまでが4分ほどだが、ダイナミックで迫力あるワンショット映像(途中2箇所ほどカットを繋いでいると思われるところがある)で展開されている。

今回の「1917 命をかけた伝令」のワンショット撮影は、この「007 スペクター」で試みたものがヒントになっているのではないかとも考えているのだが、いずれにしても、この戦争を描く作品に、この手法を採用したのは、実に当を得ている。観客をそのまま戦場の体験に連れ込むには、実に効果的であった。


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筆者は、この作品を初めて観たとき、「ワンカット映像」だという事前の知識もあったため、どこでカットを繋いでいるのかが気になり、ずっとスクリーンを注視していたが、1箇所以外はほとんど見分けがつかなかった。

しかし、このような画面の外ばかりを気にする、すれっからしの観賞方法は、この作品では適切ではない。映画館の大きなスクリーンで、ワンカット撮影のエクセレントな映像体験に没入することを、ぜひ、お勧めしたい。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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