DXの推進に伴って進められるべき既存ビジネスのアップデートは、日本の実業界にとって喫緊の課題だ。そのためには「オープンイノベーション」の概念が不可欠となる。
特に自らの力だけではイノベーションを起こすことが難しい日本の大企業にとってはなおさらだ。既存の枠組みにとらわれず、官民学やスタートアップなど、あらゆる垣根を超えた提携や協業によってイノベーションを起こそうという動きも高まっている。
これを実現するためには、前提として、他社との円滑なパートナーシップの構築が必要であり、卓越した交渉力は必須となるだろう。
今回話を聞いた事業投資会社Zコーポレーションの代表取締役社長 高田徹と、エグゼクティブ・アドバイザー/パートナーの奥本直子は、どちらも長年グローバルな舞台で企業間のパートナーシップ交渉のフロントに立ってきた人物だ。
高田は、2008年にヤフージャパンに入社。メディア・広告領域のM&Aやパートナーシップなどの責任者を務め、アメリカのバズフィードとのJVであるバズフィードジャパンの立ち上げも担当した。
奥本は、2003年から2014年まで、アメリカのヤフー本社で、JV(ジョイントベンチャー)担当のバイスプレジデントとして、ヤフー(以下ヤフージャパン、ソフトバンクとのJV)やYahoo7(オーストラリアを代表する総合メディア企業Seven West MediaとのJV)などを担当した。
日米など国籍の異なる企業同士の提携や協業を成功させてきた、グローバルなパートナーシップのスペシャリストの2人に話を聞き、「交渉成功の4カ条」としてまとめた。
1. 交渉相手とは対峙するのではなく、ONE TEAMになることから始める
そもそも、パートナーシップにおいて、交渉相手は対峙する敵ではない。パートナーシップとは、一方だけではできないことが、共に組むことで新しい価値を創出できることにこそ意味がある。
例えるならば、1つあるパイのスライスを取り合う作業ではなく、一緒に1つのパイをつくりあげる作業に近い。なので、互いの局所的な利害関係の交渉にこだわるのではなく、大局的な視点から互いの利益を考えることが重要である。
互いを「ネゴシエーター」のように認識し合うのではなく、互いの社内を説得する「フィクサー」であり「仲間」であるという関係性を構築するのが理想である。
そのためにまず大切なのは、パートナーシップを結ぶことで何を実現させたいか、一緒にどんなゴール描きたいかという、上位概念である最終目標をすり合わせることだ。
それとは対照的に、金額の交渉などの表層的な論点からスタートしてしまうと、交渉のすべてがそこに集約されてしまうので注意が必要だ。
仲間としての信頼関係を築くためには、交渉の際の合間の時間の使い方も大切だ。コーヒーブレイク、帰りのエレベーターまでの歩きの時間、タクシーに同乗して移動するちょっとした時間に、「実際はどう思うか?」と本音を話してもらうようなコミュニケーションが必要である。この積み重ねの1つ1つが信頼関係の構築につながる。