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2020.02.18

住民に支持される「広報誌」を生んだ、ある公務員のプロ意識

広報みよし撮影の様子


ターニングポイントとなったのは、2011年10月号から誌面上で「特集」を組み始めたことだ。とくに佐久間が印象に残っているのは、2012年12月号で「車人形と町の伝統芸能」の特集したことだ。車人形は、江戸時代から地元の竹間沢地区に伝わる人形芝居で、地域の伝統芸能にもかかわらず、当時は住民にもあまり知られておらず、佐久間自身もほとんど知識がなかった。


2012年12月号「車人形と町の伝統芸能」の特集

「写真を撮りに行ったら、その迫力がすごいんです。魂が人形に乗り移っているような鬼気迫る演技。三芳町にはこんなにすごい伝統芸能があることを、広報を通じて住民に伝えたい。それによって、公演に来てもらい、その素晴らしさを感じてほしいという思いが生まれました」

同年12月1日に、この特集が掲載された広報誌が配布されたが、その時点で公演日までは2週間ほどしかなかった。しかし、広報誌を読んだ町民が公演に続々と足を運び、会場は満員に。その時、佐久間は「自分が満足できるのが良い広報誌ではなく、住民の方たちに価値ある情報を提供できたのが良い広報誌」だと悟ったという。ちなみに、この特集号は、広報誌のコンクールで入賞を果たしている。
 

公務員もリストラされる時代


募集に応じて広報誌づくりに名乗りをあげた佐久間だが、それまで本格的な編集経験はほとんどなかったという。編集技術は、研修会に出席したり、ノウハウ本を参考としたりせず、独学で学んだ。

「編集を学ぶうえで、会いたい人がいれば、九州でも新潟でも自腹で行く。中途半端に研修などに参加するくらいだったら、その時間を自分でググって、知識を高めたほうがよっぽど効率的です」

重視したのは、自らの感覚を磨き、分析することだ。時には、駅の看板や広告、妻が購読する女性誌にも目を通し、良いと感じたデザインは写真に撮ってストックしておく。そして、なぜそのデザインに目を止めたのか、写真の撮り方、コピーの付け方、デザインの組み方に至るまで、突き詰めて分析した。

プロの編集者も顔負けの熱心さだが、そうするのには、佐久間の今後に対する危機感があった。

「公務員って、今後、安泰じゃないと思うんですよ。成果を出さなければリストラされる。公務員もそういう時代が来ると思います。年功序列は近いうちに崩壊するかもしれません」

感覚を研ぎ澄まし、常に新しいモノを取り入れ、仕事に生かす。そういう公務員にならなければ、今後必要とされなくなってしまうのではないか。公金の使い途に厳しい目が向けられる昨今、佐久間のようなプロ意識が公務員に求められつつあるのではないだろうか。

文=加藤 年紀

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