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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

プロ野球において、シーズン序盤に好投を見せ、順調に勝ち星を挙げていた投手が、夏場を迎えて調子を落とし、勝てなくなると、評論家が決まって語る言葉がある。

「彼は、シーズンオフの走り込みが足りなかったのですよ。だから、消耗が激しくなる夏場が来ると、スタミナ不足になるのです」

たしかに、プロ野球の世界では、どれほど優れた投球技術を持っている投手も、スタミナと呼ばれる基礎体力が無ければ、勝ち星を重ねることはできず、一流のエースと評価されることはない。

同様に、サッカーの世界でも、優れた運動神経を持ち、難しい体勢から見事なゴールを決める技術を持った選手でも、本当に真価が問われるのは、炎天下、前後半90分、延長戦30分を走り抜き、体力の限界において、ラストチャンスにパスされた難しい球を、確実にゴールに蹴り込めるか否かである。

このように、すべてのプロスポーツの世界では、優れた運動神経や技術だけでなく、強靭な基礎体力を持っていることが一流の条件である。それは、改めて論ずるまでもない、常識であろう。

しかし、不思議なことに、ビジネスの世界では、このプロフェッショナルの常識が理解されていない。

書籍や雑誌では、ビジネスのスキルについては盛んに書かれているが、ビジネスの基礎体力=精神のスタミナの大切さと、それをいかにして身につけるかについては、ほとんど語られていない。

しかし、企画と営業の道を歩んだ筆者の経験に照らすならば、ビジネスのスキルを見事に発揮するためには、相当なレベルの基礎体力が必要である。

例えば、営業において最も重要なスキルは「顧客の眼差しや表情から、無言のメッセージを読み取ること」であるが、そのスキルを発揮するためには、数時間の商談においても、集中力を切らさず、顧客に正対し続ける精神のスタミナが不可欠である。

また、プロフェッショナルの企画会議は、文字通り「知の格闘技」であり、参加メンバーには、智恵を出し尽くすための精神のスタミナが求められる。

しかし、残念ながら、いま、世の中を見渡すと、わずか1時間の会合でも集中力を切らしてしまう、精神の基礎体力の無いビジネスパーソンが、決して少なくない。

もし、このビジネスパーソンが、真に自身の才能を開花させたいと願うならば、様々なビジネス・スキルの本を読み漁るよりも、この精神の基礎体力をこそ、身につけ、鍛えていくべきであろう。

では、そのためには、どうすれば良いのか。

文=田坂広志

VOL.48

不運が幸運に転じるとき[田坂広志の深き思索...

VOL.50

賢明なもう一人の自分

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