人生100年時代の覚悟


一つの方法は、毎週、最低でも二つ、自分の全力を尽くして処する会議や会合を持つことである。

逆に言えば、毎週、どれほどの数の会議や会合をこなしても、それらを、持てる力の80%や90%で流していると、確実に、基礎体力は落ちていく。

それは、アスリートの例を挙げれば明らかであろう。例えば、走り高跳びで2.0mを跳べる選手が、毎日1.8mや1.9mを跳び続けるならば、確実に力は落ちていく。この選手の力が伸びていくのは、2.1mや2.2mに挑戦し続けるからである。

しかし、こう述べると、「やはり歳を取ると、体力が落ちていくのでは」と思われるかもしれない。

だが、そうではない。我々の肉体的体力は、40歳前後を超えると落ちていくが、精神的体力は、実は、60歳を超えても、なお高まっていく。

筆者は、それほど才能や肉体的体力に恵まれた人間ではないが、49歳のときから経営大学院で教鞭を執り、毎週火曜日の夜、3時間連続で全霊を込めた講義を行ってきた。しかし、正直に言えば、当時は、講義後、控室でしばし体を休めたくなった。

だが、その講義を20年続けた結果、いまでは3時間の講義が終わった後、さらに2時間の講義を行えるほど、精神のスタミナは高まっている。

そして、その現実を見るとき、若き日から抱いてきた一つの謎が解ける。

なぜ、60歳を超えて、心理学者のユングは、あれほど膨大な著作を残すことができたのか、画家のピカソは、あれほど数々の作品を残すことができたのか。その謎である。

実は、我々は、精神の基礎体力を鍛え続けるならば、60歳を超えても、まだまだ素晴らしい可能性を開花させていくことができるのである。

ただし、そのために求められるのは、年齢による「自己限定」をしないという覚悟。

人生100年時代において、我々に問われるのは、その覚悟であろう。

連載:田坂広志の「深き思索、静かな気づき」
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田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。世界賢人会議ブダペストクラブ日本代表。全国5400名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は、本連載をまとめた『深く考える力』など90冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp

文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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