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世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版


今回の本はあえて「そういう意味の面白み」は我慢した。優先したのは、科学的な確からしさだ。信頼性の高い情報をメインにし、エビデンスとして弱いものは「こういう結果が出ているけど、よくわかっていない」と丁寧な説明を心がけた。

この書き方については、「当たり前のことを書いているだけ」という指摘もあったが、「エビデンスに基づいた言説は初めて読んだ」「新鮮味がある」という読者からの感想も多かった。

特に反響が大きかったのが幼児教育についてだ。2000年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授の研究が有名で、幼児教育を受けると生涯所得の向上や少年犯罪などの問題行動が減ることが示されている。

10年以上前の論文だが、子育ての現場では浸透しておらず、新鮮味を持って受け入れられたのではないか。

証拠は隠さず、意見を伝える


──面白みを我慢しただけでなく、「不都合な真実」もあえて書いていました。

例えば、妊娠中に女性が仕事をすると子供が低出生体重になる危険性が高くなることがわかっている。低出生体重で生まれると、その後の生涯にわたって健康面にマイナスの影響を及ぼす。

この結果をそのまま出すと、「妊娠した女性は働くべきではない」というメッセージにも受け取れる。だが、科学的に説得力のある証拠が出ており、必要だと思ったので、作中のスペースを割いて紹介した。

私はリベラルな立場だが、この本には(保守に有利で、リベラルには)一見不利に見える情報も出している。証拠そのものは隠さず、フェアに見せるようにし、その上で「自分はこう思う」という価値観に基づく話まで踏み込んで書いた。

──家族の経済学を専門とするようになったのは、海外経験がきっかけだったと書かれていました。

アメリカの大学院を卒業し、カナダの大学で労働経済学を教えていた。アメリカとカナダで印象的だったのは、尊敬できるすごい女性のリーダーが社会のいろんなところにいること。しかし、日本はそうではない。その時に初めて、女性が社会で活躍できていないというのは当然でも自然でもないということに気がついた。

日本の社会や経済がうまくいかない理由がこの辺にあるのではないかと思うようになった。その後、日本における女性の労働進出を促進する制度として、最初は育休も保育も女性の就業がどうなるのか、という視点で研究していたが、子供への影響も重視するようになった。子供は、次世代の経済社会を決める存在だ。そうして結婚から子育てまで「家族の経済学」を専門とするようになった。

幼児教育の効果については、子どもの知能面よりも、その子の攻撃性や多動性が下がるといった非認知能力の向上が重要だと考える。幼少期の問題行動は少年犯罪や将来の犯罪につながりうるが、幼児教育で正しい方向に早めに誘導してあげることができるかもしれない。

幼児教育は、社会全体に対しての投資と言える。自分の子育てが終わった人や子供を持たない人は関係ないと思うかもしれないが、犯罪の社会的なコストはとても高い。そういったものが避けられるようになれば、社会全体に広く利益が行き渡る。恵まれない子供たちを助けるだけでなく、将来の自分を助けるプログラムだと考えて、支持する人が増えてほしい。

構成=成相通子 

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