日本の伝統芸能とくまモンの意外な共通点とは?|トップクリエイターが語る「文楽の効能」

good design company 代表の水野学氏(クリエイティブディレクター/クリエイティブコンサルタント)

くまモンの生みの親である水野学氏は、古典芸能の文楽をこよなく愛するクリエイターの一人。文楽からデザインの着想を得ることもあれば、経営者としての資質が磨かれる側面もあると語る。

くまモン「無表情」の秘密


水野学の名を、デザイン業界を超え一般に知らしめた仕事の筆頭といえば、くまモンだろう。

「くまモンの顔は、見る人によって表情が変わるといいなと思いました。悲しいときには寄り添ってくれて、イライラしているときは『そんなに慌てなくていいじゃん』というように見える。文楽人形のかしらやお能の面って、わずかな角度の変化で悲しそうに見えたり華やかに見えたりしますよね。そういう日本の伝統的な(演劇に用いられてきた)顔、表情の見せ方に、ヒントを得ています」


角度や見る人によって表情が違って見えるのが文楽人形の魅力。

初めて文楽を見たとき、気が付くと“古典芸能”に自分が没入し、感情移入していることに、驚いた。今でも、舞台を観るごとに「人形ってわかっているのに、どうしてこんなに感情移入できるんだろう」というストレートな問いが呼び起こされるという。

水野にとって文楽を見ることは、「人はどうしたら感動してくれるのか」を考え抜いた、先人の想像力の軌跡を辿る体験でもある。

思いがけない場面や予想もできない演出に驚き、「なぜ?(こんなふうになっているのか)」と考えるとき、水野にはそれが、どうしたらもっとよくできるかと心を砕いてきた人たちの工夫と映るようになった。つねに見る人の想像力を超えようとして、今見ているこのあり方に至った道の痕に、触れる気がするという。

いわば「つくる側」の視点だ。

そして、この想像力が先人たちと自分の仕事の共通項だと気づいた。水野は、自分にとって仕事は「相手を想像することにつきる」、と端的に言う。「そこが考え抜かれた文楽の舞台は、ビジネスマンは、見ても損はないと思います」。

想像力に加えて美意識を高めることが、日本のビジネスパーソンたちに一番必要なことだと水野は言う。そして、それを身体感覚で受容させる力が文楽にはあるとも。

水野が魅了されるところの一つは、文楽の造形美だ。細部にまで及ぶ、尋常ならざるその完成度。舞台や人形、それに床本(文楽の太夫が舞台で用いる浄瑠璃本)の美しさに、心奪われる体験を重ねてきた。そして、気が遠くなるほどの到達を、デザイナーの視点から実感する出来事に、水野は出合う。

文楽の太夫、六代目竹本織太夫がこの名跡(みょうせき)を襲名する際、織太夫として用いる定紋・替紋の制作を依頼されたのだ。
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文=本橋ヒロ

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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