スマートグラスメーカー、Atheer Labsを率いるアルベルト・トーレスは、グーグルグラスの失敗から多くのことを学んだ。グーグルグラスは、その将来性が高く評価され、世間の期待も高いプロジェクトだったが、今年初めにグーグルが販売中止を発表。その未来は閉ざされたように見える。
現在、この分野で競合となる企業はエブソンをはじめ、ベンチャー企業のMeta(メタ)や、潤沢な資金を持つMagic Leap(マジック・リープ)だ。最近、マジック・リープは、同社の拡張現実メガネを着けることでオフィスが仮想空間と化し、シューティングゲームが楽しめるという内容の動画を公開した。
Atheer Labsの拡張現実メガネは、競合他社の製品と同様に、投影された画像を空中でジェスチャー操作できる。しかし、同社は昨年10月に重要な戦略転換を行った。それは、第一世代の製品を、マジック・リープのようにゲームファン向けではなく、企業の従業員用として開発するというものだ。
グーグルグラスのように、間抜けに見えるメガネの用途は、業務利用にしか適さないと考えたためだ。
同業他社が、スマートグラスは消費者が惚れ込む「かっこいい」ガジェットだと考える中で、Atheer Labsの判断は、非常に厳しい自己評価だったと言える。例えば、メタは、自社のグラスを装着すると「アイアンマンになった気分が楽しめる」と盛んに宣伝している。
しかし、グーグルグラスの失敗は、この分野の成功のためには、まずは業務利用への注力が唯一の道であることを証明した。
「グーグルグラスは高額でオタクっぽい」とAtheer LabsのCEO、トーレスは語る。2.5cmほどの厚さだ。
「一般消費者が、スマートグラスを着けるのにはまだしばらく時間が掛かるだろう。それどころか、果たして世間の人々が常時スマートグラスを着けて歩き回るような未来が来るのかどうか、確信が持てない」
Atheer Labsのスマートグラスを着けると、6個のアイコンがレンズに投影され、それを指先で操作することが出来る。アイコンの一つは地図を表示し、簡単な操作で拡大することができる。
別のアイコンは外科医用に作られたもので、手をひと降りすると、画面右側に心拍数や体温などの生体指標を表示可能だ。
同社が狙うのは、作業者がヘルメットや保護メガネを着けることが一般的な医療や工業分野の企業だ。同社の製品「AiR」はまだテスト段階で、来年1月の販売開始に向け準備を進めている。
競合のエプソンの製品と比較して、トレースはこう語る。
「 2016年1月に販売する予定だ。アシール・ラブスは、メタやエプソンと並び、これまでの数ヶ月間、第一世代のスマートグラスを開発者向けに販売してきた。エプソンの製品は価格なりの価値がある一方、ヘッドトラッキングを用いるので操作にコツが必要で、弊社のスマートグラスの方が優れている。さらに、 我々の製品は最高レベルの光学技術を搭載しているため、競合製品よりも価格は高い。独自に開発したジェスチャー操作システムを用い、スマートフォンの画面上の操作を空中で行える」
競合するメタのスマートグラスも、同様な操作が可能だが、大きく異なるのは、メタの製品がゲーム開発用エンジンのユニティで動作するのに対し、Atheer Labsの製品はアンドロイドをベースとしている点だ。
現在、Atheer Labsのスマートグラスを使った興味深い製品テストが行われている。
それは、保険調査員向けのツールとしての活用だ。既にある保険会社が、調査員が事故車両を調査したり、記録するためのアプリの開発を始めたという。このアプリを使用すれば、調査員が現地に赴かなくても、修理工自身が事故車両の査定ができる。
トーレスによれば、他にも複数の企業が今夏、Atheer Labsの製品の実地試験を行うという。
企業向けの利用は「地味かもしれないが、スマートグラスを広める唯一の方法だ」とトーレスは話す。
「携帯電話の普及の歴史を振り返れば、iPhoneが登場するまでは、全てのハードウェア開発は、業務利用を念頭に置いてスタートしていた。パソコンでも同じことが言える。一般消費者がスマートグラスを使い始めるのには時間を要するだろう。けれど、企業が使い始めるのは今日からなんだ」