SDGs(持続可能な開発目標)が普及するのに伴い、環境問題が世界における大きなアジェンダとなっていて、そのうねりは自動車業界にも押し寄せている。これまでクルマに求められることは、移動の便利さ、あるいは運転の楽しさだった。それで十分だった。しかしいま、大いなるゲームチェンジが果たされようとしている。その主役は、環境に対して汚染物質を排出しないゼロ・エミッションを実現していくピュアEV、「日産LEAF」だ。
2019年9月、観測史上最大級の勢力で台風15号が上陸した。千葉県を中心に猛威を奮い、なかでもインフラとしての電力網を麻痺させたことは、人々の生活に甚大な被害を与えた。そこに駆けつけたのが50台以上の「日産LEAF」だった。
被災地に駆けつけた「日産LEAF」は、移動手段として使われただけでなく小学校や役所などの各施設を拠点にしてバッテリーとして電力を供給し、人々の生活を助けたのだ。
これは環境問題におけるエポックである。クルマの新しい価値が存分に発揮された瞬間だった──。
もはやクルマは環境に負荷をかける存在ではない「ほとんどのクルマは、1日24時間の90%が停まっている状態です。通常のクルマであれば他に役立つことはないでしょう。しかし『日産LEAF』は、搭載している大容量リチウムイオンバッテリーの機能により、電力を取り出して使用することができるのです」
そう語るのは日産自動車日本EV事業部主担の河田亮だ。電機メーカーで太陽光発電を手がけたあと、充電環境も含めた総合的なEVの可能性を追求するために18年に日産に転じた再生可能エネルギーのスペシャリストである。その彼が感じ取ったのが、「日産LEAF」の蓄電池としての可能性だった。
日産はEVおよび蓄電池の重要性に気付き、09年に事業を開始。数々の実証実験をもとにEV事業部をスタートさせた。そこからピュアEVとして生まれたのが「日産LEAF」だ。現在日産が提唱しているゼロ・エミッションとゼロ・フェイタリティ(交通事故による死亡・重傷者数をゼロにする)を目的とする「ニッサン・インテリジェント・モビリティ」を象徴する車種である。
EVの国内保有数は10万台を越え、EVシフトの流れは加速し始めているが、これまでのEVは電力を受け取る一方だった。ところがこの「日産LEAF」は、貯めた電力を使用することにも主眼を置いている、まったく新しい発想のクルマなのだ。
「日産LEAF」なら家庭の全電力を2〜3日、「日産LEAF e+」なら家庭の全電力の3〜4日にわたって供給することが可能に災害時に大活躍した「日産LEAF」。河田はその具体例を話してくれた。
「『日産LEAF』に貯めた電力は、V2Hで変換することで、家庭の電力としても使用することができます。たとえ停電が起こっても、一般的な一戸建て家庭なら、2〜4日間、エアコン、テレビ、冷蔵庫、IH調理機器、炊飯器、ドライヤーなど、およそ通常の生活に必要な電力がまかなえます
(※)。もちろん使用時にCO2は一切排出しないので、避難場所の体育館の中に置いても空気を汚しません」
※ 一般家庭での一日あたりの使用電力量=約12kWhは平成31年3月環境省「平成29年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査」地方別世帯あたり年間電気消費量から算出。<世帯あたり年間消費量全国平均4,322kWh÷365=11.8kWh>電力供給の難しさは、貯め込めないことにある。これが通説だ。電力会社側が需要に合わせて細かく調整して供給する必要があるというこの仕組みは、猛暑の夏の午後のピーク電力問題を毎年のように社会課題化させている。
「つくり出したエネルギーを無駄なく使うこと。集中させない給電でバランスを取ればピーク電力は減少します。そうなれば環境に悪影響を与える発電施設自体も減少させることも可能になるのです。これこそが、環境問題に対するクルマの回答なのです」
家全体を動かすための巨大なモバイルバッテリーとして、災害時の安心を生み出す「日産LEAF」。この新たなクルマの価値を社会に還元するために、日産は日本電動化アクション「ブルー・スイッチ」と名付けたプロジェクトを立ち上げ、自治体や企業と連携して社会貢献活動に取り組んでいる。
個人個人の「日産LEAF」導入が、社会貢献へつながっていく社会課題に対して個人でもできることがある。それが「日産LEAF」の導入だと、河田は力説する。
「環境問題をクルマで解決する。しかも個人個人の力で、始めることができるのです。クルマの性能としても、フル充電を行った『日産LEAF e+』は、62kWh(「日産LEAF」は40kwh)の大容量バッテリーによる458km(WLTCモード)/ 570km(JC08モード)の走行が可能で、移動手段としても申し分ないはずです。給電設備もすでに全国に3万基まで増え、その数は国内のガソリンスタンドの数とほぼ同等にまで拡大しています。今後さらに増えていきますので、もはやガソリン車に対してのディスアドバンテージはなくなっています」
舞台装置は整った。あとは実践あるのみ。個々がアクションを起こし、大きなうねりとするだけである。
近年はシェア文化の台頭で“クルマをもたない”層も増えている。しかしここに来て移動の道具でありながら電力インフラにもなる「日産LEAF」を前提に、クルマを所有する意味を再び考え直す声も大きくなりつつある。
日産が仕掛けた大きなゲームチェンジ。そこには従来のクルマでは描けなかった、人とクルマの共存の未来がある。
>>日産LEAF WEBカタログはこちら1月27日にはマイナーチェンジした「日産LEAF」が新登場した。スマートフォンで設定した目的地をシームレスにクルマのナビシステムが受け取ることのできる「ドア・トゥー・ドア・ナビEV」、9インチに大型化して、色鮮やかに視認性を高めたナビシステムはタッチパネル化を果たし、「in Car Wi-Fi」を搭載することで、同乗者すべてが柔軟なインターネット環境を手に入れられることができるようになった(※グレード別設定。詳しくは販売会社にお問い合わせください)
かわた・りょう◎1984年兵庫県生まれ。日産自動車 日本EV事業部主担。2007年関西大学工学部卒業後、シャープ株式会社に入社。18年より現職。日本市場におけるEV事業の成長のため、EV関連事業(インフラ整備、異業種アライアンスの拡大等)を担っている。趣味はテニス。