ラグビー日本代表、快進撃の舞台裏──ベスト8進出を支えた「脱・根性論」戦略

史上初ベスト8進出を果たしたラグビー日本代表(Gettyimages)


数字の「意味」に気をつけなければ逆効果


もちろん、データは日本チームだけに与えられていたのではない。W杯参加チームはすべての試合映像を見ることができた。「お互いに最大の準備をして試合を行えるようにというワールドラグビー(ラグビーワールドカップの統括組織)の意図がある、と浜野氏は説明する。


W杯参加チームは全ての試合データにアクセスできた。写真はスコットランドチームのデータ。

一方で、データ活用の注意点も紹介した。複数のメディアが日本の強みとして取り上げたオフロードパス(体勢を崩しながらするパス)で、片手になることもあるパスだが、実は前回大会(2015年)と今回の大会で、回数はそれぞれ6.8回、7.2回とほとんど同じなのだ。

だが、前回はタックルされるからと逃げるようにボールを投げると言ったネガティブなオフロードパスが多かったのに対し、今回はトライに結びつくポジティブなオフロードパスが多かった。「同じ回数でも中身は異なる。数字の意味に気をつけなければならない」と浜野氏は述べる。

「グローカル」なカルチャーも強みに


このように、日本チームは客観的なデータに基づきトレーニングをしたが、あの感動的なラグビーは客観的なデータに基づく練習だけの成果ではない。浜野氏はカルチャー面での取り組みとして、「グローカル」があったことを紹介した。

日本代表の31人のうち、15人の外国出身の選手が入っている。「グローバル」な環境だが、自分たちだけのローカルな文化を作ろうというのが「グローカル」に込められた意味だ。映像やスタッツを見て、お互いにコミュニケーションをとりながら、自分、チーム全体、相手を分析する文化を育成した。

会期中、同じポジションの選手が3人で映像を見て話し合うなど、コーチから言われるのではなく、選手が自分の時間を使って自習した。浜野氏が見せたビデオでは、スクラムについてメンバーがそれぞれの意見を言い合うシーンがあった。

今後ツールなどの技術が発達すると情報戦の要素が強くなるとも予想できるが、浜野氏は次のように語る。

「BIツールが身近になり、AIも発展する。情報だけが大きくなると、アナリストそして最終的にそれを消化する選手やコーチが消化できない場合は使えない。今後はアナリスト、そして選手も情報を消化できることが必要」。

ITリテラシーはスポーツでも必須になるだろう。日本代表の戦いとそれを支えた客観的な準備とカルチャーの育成──ラグビーやスポーツに限らず、ビジネスでも学ぶところがたくさんありそうだ。

文・写真=末岡洋子

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