感染症の「アウトブレイク」に震撼する世界経済に、いま必須の視点とは

世界レベルでの感染症管理では、感染症の封じ込めだけでなく、経済面での影響にも注意を注ぐべき。(REUTERS/Kim Hong-Ji)

新型コロナウィルスの感染拡大によって、いま感染症のアウトブレイクが世界経済に与えるリスクについて注目されています。
過去の事例から、私たちが学ぶべきなのはどんな視点でしょうか。


18世紀後半のリバプールでは、火災は決して珍しいことではありませんでした。火災が発生すると、毎日届けられ、急造の倉庫や納屋や置き場に保管されていた、煙草や砂糖や綿に燃え移るのではないかと騒ぎになったのです。

意外と思われるかもしれませんが、当時は火災という緊急事態に、2つのまったく別の部隊が同時対応していました。ひとつはもちろん、消防隊。そしてもうひとつは、サルベージ隊と呼ばれる部隊。火災の被害と消火活動の影響を最小限に食い止めるのが任務で、建物と物品の保護を目的としていました。

その後は次第に、消防隊が無用な被害や損失の拡大を防ぐ活動を重視するようになり、別の部隊としてのサルベージ隊の存在は不要になっていきました。そして今日は、被害の軽減と財産の保護はいずれも消火活動での欠かせない任務となっています。

現代に話を戻すと、世界規模での感染症のアウトブレイクがいつ発生しても不思議ではありません。そして、感染症のアウトブレイクが発生する頻度は着実に高くなっています。世界保健機関(WHO)では毎月、アウトブレイクとなる恐れがある新たな前兆の調査を7000件、追跡調査を300件、詳細調査を30件、完全なリスク評価を10件実施しています。昨年7月には史上初めて、WHOの「優先的に取り組みが必要とされる感染症」のリストに挙げられている8つの感染症のうち6つのアウトブレイクが確認されました。

感染症への対応と先述のリバプールの火災への対応には共通点が見出せそうです。世界を見渡してみると、症状がかなり軽い感染症への対応能力さえもいまだに不十分な状況です。しかし、WHOを筆頭にさまざまな機関が、感染症のアウトブレイクのリスクと影響を軽減する能力を高めるために、効果的な取り組みを推進しています。

世界危機準備モニタリング委員会、WHOの緊急対応基金、世界銀行のパンデミック緊急ファシリティ、感染症流行対策イノベーション連合が近年、相次いで誕生しました。一方、世界で初めてエボラ出血熱のワクチンの試験的投与も実施されました。コンゴ民主共和国で感染が食い止められ、数え切れないほどの命が救われました。

気候変動と同レベルの経済的打撃


世界レベルでの「感染症に対する消防隊」は確かに強化されています。しかし、社会的・経済的な被害の拡大を最小限にとどめるにあたり、現在の消防隊が火災現場にて建物への被害の軽減と貴重な財産の保護に重点を置くのと同様の配慮が、十分にされない場合、根底を揺るがすような危険が発生することになります。

事実、感染症のアウトブレイクが与える経済的な打撃は計り知れません。深刻な感染症および比較的深刻な感染症にかかる、世界全体の年間コストはおよそ5700億ドル(世界の所得の0.7%)で、気候変動にかかるコストと同等です。

さらに驚くべきことに、感染症のアウトブレイクがもたらす経済的な損失のうち、感染者による直接的な損失はわずか39%でしかないと推定されています。むしろ、コストの大部分は健康な人びとが感染を避ける目的で生活習慣を変更することに起因するもので、被害の拡大を抑え込むのに巨額が必要になる可能性を示しています。


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文=Ryan Morhard, Community Lead, IO and IGWELS, World Economic Forum

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