カジは家族の仕事の関係で渡米し、大学時代に知り合ったベトナム系アメリカ人の妻─彼女は高校の理科教師だった─と24歳で結婚し、ライアンくんが生まれる。本業は建築家で、事務所に所属し、キャリアを積み重ねていた。ここまでは、どこにでもありふれたストーリーだ。
開始4カ月で、世界のトップ20にランクイン
「普通の一家」の生活が一変するのは、ライアンくんが3歳になった頃だ。
「ライアンが他のユーチューバーのおもちゃレビューが大好きで、やりたいと言ってきたのが始まりでした。最初は趣味程度です。僕たちの家族はベトナム、日本、中国などに点在していますから、ユーチューブにアップするのがちょうど良かったのです。見るのも家族くらいだろうと思って撮り始めました。
それが、はじめて4カ月で、世界のトップ20に入るユーチューバになっていました。チャンネルの再生回数が瞬く間に伸びていきました。今から考えると、ライアンのナチュラルなリアクションが、他のキッズユーチューバーにはない特徴だったのかな、と思っています。思ったこと、感じたことをそのまま撮影していました。
彼は本当に天真爛漫なんです。すべてナチュラルに楽しみ、カメラのオンオフ関係なく、変わらないでいることができる。始めたときから、彼はカメラの先にファンがいると理解して、語りかけていました。
驚いたのは僕たちです。最初は趣味でしたが、ファンの数の伸び、再生回数の伸びを見ていると、影響力が広がっていると思いました。もうこれは趣味でやる領域を超えています。そこで僕も仕事を辞めて、制作会社を立ち上げて、ブランドとして運営をしていこうと決めたんです」
すべてはライアンくんのためだった。これだけの影響力があれば、それを期待して接触してくる大人たちもいる。ビジネスの波に飲み込まれ、嫌なことを我慢してやらせることはしたくなかったという。
「なるべくライアンが好きなことをやらせるようにしています。最初はおもちゃレビューでしたが、今は年齢を重ねて、おもちゃの興味も変わってきています」
撮影時間は1週間で3時間を超えない
ライアンが好きなことができるように、カジは2016年に会社を退職。その後、本格的に制作会社立ち上げの準備を始め、経営に専念。現在は従業員も抱えるようになり、ビジネス面はカジが担当し、制作のプロデューサーは妻が担当している。大事なことは家族で決めている、という。
「僕と妻の間で、ライアンの撮影時間は一週間で3時間を超えないと決めています。ライアンも興味が広く、平日は学校が終わった後、テコンドーや体操、プログラミングといろいろな習い事にチャレンジしています。
今、成功していても、彼が将来「自分はユーチュバーとしてしか生きていく道がない」とは思って欲しくないんです。将来、ゲームプログラマーかコメディアンになりたいと言っているので、それならプログラミングの基礎は大事だろうと思って、習い事にも挑戦しています」
他のことを犠牲にしてまで、ユーチューブをやってほしくない
子供がユーチューブという新しいショービジネスの最前線に立つことになった。家族として、葛藤はあったのだろうか。
「葛藤はほぼ毎日です。何か判断を間違えれば、彼の将来の生活に関わる。今日やったことが、彼が大人になる中で、本当に良かったと思ってもらえるかは不安はあります。
他のことを犠牲にしてまで、ユーチューブをやってほしいとは思わないんです。ライアンが、一人の小学生として充実したプライベートライフを送るほうがはるかに大事です」