チャーミングケアで広げる家族の視点


エンタテインメントの力で笑顔を届ける


そんななか、自身のお子さんとの闘病経験をもとに、病気や障害のある子どもたちのために自分のできることを形にしたいと、プロジェクトを立ち上げたお父さんがいる。

国際小児がんデーに合わせて開催する「LIVE EMPOWER CHILDREN 2020」を企画したEmpower Children理事の保屋松靖人さんだ。
同イベントは、Every Little Thingや倖田來未さんらが出演するチャリティーライブで、その他多数のアーティストが参加する。

収益は、全国の小児がん拠点病院や支援団体を通じて関連施設の拡充やがん治療の研究費に充てられ、さらに小児がんの子どもたちに、エンタテインメントの力で笑顔を届けたいという理念のもと、ライブの様子を国立成育医療研究センター内で入院患児らを対象に同時配信するという。保屋松さんに話を聞いた。

「自分の息子が、がんであるとわかった時、振り返ってみると、とにかくがむしゃらに彼の命を守りたいという一心で行動していたと思います。なかなか難しい種類のがんだったので、ありとあらゆる治療法をあたりました。

僕は、エイベックスでアーティストのマネジメント業務に携わっていたこともあり、同時期に入院していた治療を嫌がって毎日泣いていた子どもにアーティストからのメッセージを手渡すと、治療に前向きなってくれました。そのことをきっかけに、「エンタテインメントは生きる力を支える」ということを再認識し、今回の企画を立ち上げました。

僕も、仕事柄とても忙しく時間も不規則でしたので、いわゆる家庭を顧みない父親だったと思います。子どもが病気になって、初めて家族と向き合うことになりました。24時間体制の付き添いではなかったですが、1年半ほどの子どもの闘病を家族で乗り越えました。

妻と役割分担を考えて、僕にできることはなんだろうと考えた時、とにかく子どもの命を守りたい、そのためにできることは何でもしようと、とにかく情報にあたりました。それが自分にできる役割だと認識していました。闘病中、情報交換という形で、他のお子さんのお父さんともコミュニケーションをとることもありました。

子どものメンタルケアに関しては、その家族ごとにケースバイケースだと思いますが、うちの場合は病名の告知を本人にはしない方針で進めていました。きちんと病気を治せるようにするから、心配しないで治療に当たりなさいということをしっかり伝えていました。いまとなっては、それが良かったのかはわからない部分はありますが、僕のできる範囲の子どもへのメンタルケアだったかなと感じます。

外見ケアに関して、うちは男の子だったのでそんなに気にはならなかった気はしますが、治療で髪の毛は抜けてしまうことは初めに伝えて、抜けるんだったら先に切ってしまおうと子どもには言って、僕がバリカンで髪を切りました。

あとは、抗がん剤で本当に食事ができない状況になってしまって、その際に、好きだったお蕎麦屋さんの蕎麦だったら食べられるかもしれないと思い、店まで買いに行って病院へ運んだりしていましたね」

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Empower Children理事の保屋松靖人さん

「とにかく、諦めずに一歩前へ踏み出すというのが大切なのかなと思います。言葉にするのは難しいですけど、家族の中であったり、自分の置かれた環境であったり、その中で自分にできることをしてきたというのが、いまにつながっているかなと感じます」

保屋松さんは、子どもの闘病中に、線虫という生物の嗅覚を利用し、がんを早期に発見することができる「N-NOSE」という技術を知り、その出会いがきっかけとなって、いまは小児がんへ活用するプロジェクトも進めている。また、チャリティライブイベントの様子を、全国の小児がん拠点病院でパブリックビューイングする企画も考えているそうだ。

私自身の経験も含めて、お父さんの気持ちをあらためて聞く機会がなかったのだが、今回何人かのお父さんの言葉と出合い、母親が思っている以上に家族について考えているのだなと感じた。

ただ、一般的には、夫婦ともに、まず子どものケアに意識を向けてしまいがちになるので、パートナーへのケアが不十分になってしまいがちになる。今回、話を聞いたお父さんたちは、総じて「役割分担」をするのがとても上手な人たちであった。そして役割分担をするにあたっては、夫婦間や家族間できちんと話し合いをしているのも特徴的だ。

家族の中での役割、自分のポジショニング。これは病気や障害のある子どもを持つ家族だけでなく、どんな家族にも必要な要素なのではないだろうか。
子どもの病気や障害は確実に家族の形を立ち止まって見直すきっかけになる。今回改めてそう感じた。

連載:チャーミングケアで広げる家族の視点
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文・写真=石嶋瑞穂

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