アスラボが、このような個人の料理人を支援するのには、料理人を取り巻く厳しい状況がある。個人の料理人が起業し、店をつくろうと思ってもそもそも資金がない。仮に資金があっても、駅前などの好立地な土地は賃料が高く採算が採れない。事実、飲食店の3年での廃業率は75%を超えている。
こうした背景については、JR東日本側も課題だと認識していた。
「産業構造的に、個人の料理人が活躍しにくい状況は、シェアダイニングを推し進めるにあたって感じていました。特に初期投資が個人にとってはものすごく重たい」(服部)
これを解決すべく、シェアダイニングに入る店舗には、20万円の初期費用だけで済むようにしている。まだ具体的に、どの料理人が入居するかは決まっていないが、最大9店舗(朝・昼・夜3店舗ずつ)になるという。スペースはJR東日本が用意し、実際の運営はアスラボが担当する。
食のコワーキングスペースとは?
服部は「たとえばアメリカのホールフーズ・マーケットでは、地元の中小規模のメーカーがつくったスナック菓子などの食品を売れるスペースがある。日本のスーパーマーケットのように大手メーカーの食品だけが並ぶのではなく、中小規模のメーカーが生産した食品が売られている。そうした物流や販路のエコシステムが出来上がっている。コワーキングスペースをひとつのキッカケにして、同じようなエコシステムをつくり上げられればと考えています」と話す。
服部は「既存の飲食業界の構造を変革する突破口として、シェアダイニングで成功した料理人が、たとえば駅ビルで店を構えるようになるといった具体的な成果を出したい」と語る。古田も「駅ビルや駅ナカはこれまで消費する場所だった。せっかくひとつの場所に多くの人が集っているならば、消費だけでなく、新しい出会いやビジネスが生まれ、新しい食の体験ができるような、『駅の新たなフラッグシップ』を目指したい」と意欲を見せる。
そしてアスラボの片岡も、こう希望を語った。
「料理人の起業環境や成功できるチャンスを劇的に変えたい。日本の食文化は、世界から注目はされているけれど、構造的に非常に厳しい状況です。これを劇的に変えないと、中高生が将来、料理人になりたいという夢を持てない。そうしないと、日本の素晴らしい食文化は崩壊します。消費者側からしても、コンビニエンスストアやチェーン店だけでなく、選択肢が増え、多様な料理をカジュアルに食べられるようになることは素晴らしい」
オープンイノベーションとして、大企業がスタートアップや大学などと組み、事業へ取り組む動きが活発になってきているなか、製品やサービスではなく、駅という社会インフラに「個性」を創出する今回のプロジェクト。インフラを担う大企業と、料理人起業支援スタートアップの組み合わせは、オープンイノベーションの新たな可能性を示す好事例となるだろう。