ビジネス

2020.02.13

主役をなくしてみる「レス法」

ギターがいないバンド、校舎をもたない学校、ブランドがないブランド……。主役が不在だとどうなってしまうのか?

「不動の価値を与えていたものをあえて迂回する」ことで固定化された概念が崩れ、新しいアイディアが生まれるかもしれない。


私は、んoon(ふーん)というバンドでハープを弾いている。ハープは、オーケストラによくいる弦楽器だ。弦は47弦、高さは180cm、重さは35kg。くるりの佐藤さんに、「ライブやりたいのに楽器が運びづらい本末転倒バンド」とツッコミを入れられたことがある。

んoonは、ハープの他に、ボーカル、ベース、キーボード、ドラムで構成されている。ギターがいないので「ギターレスバンド」といわれているが、私たちは「ギターレスバンド」という確かな作戦があって始めたわけでは全然ない。もちろんギターの代わりにハープがいるわけでもない。最初に「ギターレス」という紹介を聞いたとき、「レス」という響きから自分たちには大事な何かが欠けて見えているんじゃないかという印象をもった。

だってギターはかっこいい。ロック史は、ギターの進化によって作り上げられた。コンパクトな体でどこでも運べて、アンプリファイしたら何万人という観客席をも轟かす優れたインターフェースだし、傷だらけでもかっこいいし、燃やしてもさらにかっこいい。

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ギターレスバンド「んoon」。ギターがいらないのではなく、ギターを希求し、責任を分散している。

だけど自分たちのバンドにはたまたまギターがいなかった。だから、全員で工夫をして、ギターのリズミカルなカッティングや、アドリブ部分で泣かせることは、メンバー全員で各々分担するようにしている。例えば、ハープはミュートの入れ具合で、ギターっぽくなれる。んoonのベースは6弦もついていて、うざいほどテクいので、ほぼギターになれる。ドラムはドライな音で残響を区切り、キーボードはここぞというときに泣き、ボーカルは全体にいわずもがなの説得力をもたせる。こうやって、私たちはギターの音色だけではないスター性も、みんなで担うバンドとして活動している。

つまり、今回ここでいう「レス」はコードレスやキャッシュレスなどの「レス」とは別ものである。無駄なものをなくす「レス」ではなく、それがないと成り立たないとされているモノを否定せずに希求しながら、意味や責任を分散したりする「レス」だ。

ここからこれを「レス法」と方法化したとき、発想を活性化することができるかを考察してみたい。

今まで世の中に出ているもので、「レス法」に分類できるものは以下がある。

例1)顔出しレス「すとろべりーぷりんす」

2016年から活動をしている、6人の男の子によるアイドルグループ。私の11歳の姪が今ハマっているアイドルで、2次元バージョンと3Dバージョン(リアル)とがあるが、実際の顔の露出はNGの「顔出しレスアイドル」だ。

例2)ブランドレス「無印良品」

「無印良品」は世界に誇る日本のブランドの一つだが、もともとは「しるしの無い良い品」という意味。従来のブランドのもつ強い嗜好性を誘う概念を「レス」した、「ブランドレスブランド」といえる。

例3)校舎レス「ミネルヴァ大学」

ミネルヴァ大学は、世界中を旅しながら学ぶという教育方針の「校舎レス大学」。電通にも2人の学生がインターンに来ていたことがあり、柔軟で新鮮な視点からのアイデアを発言していたことを覚えている。

このように、オルタナティブな「レス」は、不動の価値を与えていたものをあえて迂回することにより、今までのそれとは全く違う体験や存在感を生み出しているということがわかった。
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文=上江洲佑布子 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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