そんな石山の存在を耳にして、声をかけたのが春田だ。DeNAを退職後、「新しいことに現場からチャレンジしたい」と投資会社やエクサインテリジェンスを立ち上げた春田は、当時、14期連続で赤字経営だったデジタルセンセーションに出資を決めた。
「現状ではなくて、会社のやろうとしていること、そこにいる人たちを見ての判断でした」と振り返る。「その頃、特養にいる祖母を母親が老々介護する姿を目の当たりにしたんです。こうした負担を軽くしないといけないと、その後の方向性を決めました」
壮大なミッションに共鳴者は続々と現れた。社員数はこの2年間で30人から150人規模に拡大。約半数は東京大学や京都大学のAI研究者、GAFAなど一流企業出身のエンジニアだが、戦略系コンサルタントが2割、介護士、看護師、理学療法士、薬学博士といった各領域の専門家も2割を占め、他のAI企業には類を見ないほど多様な人材が集まっている。
社外取締役には、元JT副社長の新貝康司、ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン元会長の火浦俊彦など経営のプロも参画。AIが雇用に与える影響を予測し、世界に衝撃を与えた『雇用の未来』の共著者、英オックスフォード大学准教授のマイケル・A・オズボーンも顧問に名を連ねる。
「最近では、エンジニアの4人に1人を占めるくらいに、外国人社員が増えてきました。世界で最初に超高齢社会を迎えるのは日本。ここで結果を出せば、自分の国が同じ境遇を迎えた時にも貢献できる。だから、いち早く日本で挑戦したい人たちが増えているのです」(石山)
実は石山は、一部の間で「現代の空海」と呼ばれることがある。大学時代、2週間でAIプログラミングを習得し、米カーネギーメロン大学で開催されるAIプログラミングコンテストに出場したことを、梵語を数ヶ月で習得した空海の逸話になぞらえて編集者が表現したものだ。今回の高野山での講演も、「現代の空海」がAIで社会を変えようとしているという話が広まり、関係者が聞きつけたことがきっかけだった。
講演の際にも、営業や採用の場面でも、石山には、かつて春田が話した言葉を借りて、必ず伝えていることがある。
「子どもの頃、部屋が散らかっていたら親から『片付けなさい』と言われたでしょう。では、大人になると何が変わるのか。社会課題は、自分たちで散らかした課題だから、きちんと自分たちで片付けられるようになって、初めて大人といえるのではないでしょうか」
すると、みなハッとなるそうだ。弘法大師が全国にさまざまな伝説を残したように、AI伝道師の石山の説法も人々の間に記憶され続けるかもしれない。