「ほとんど毎週、どこかでお話しさせてもらっています。聴講されたお客様の共感度は、いつもすごく高いんですよ。イメージしていたAIとは全然違ったという声が多くて、講演をきっかけに案件を受注することもあるんです」(石山)
エクサウィザーズは、石山がCOOを務めていた静岡大学発のデジタルセンセーションと、ディー・エヌ・エー(DeNA)元会長の春田真が設立したエクサインテリジェンスが17年10月に統合して誕生した。認知症ケアの介護技法である「ユマニチュード」を取り入れたAIソリューションなど、介護領域を皮切りに、HR、ロボティクス、フィンテック、メディカル、インフラ、飲食、リテールなど、広範な領域で企業とAIプロジェクトを推進。年間で100件超の案件に携わっている。
例えば、19年5月には第一三共とAI活用の創薬研究プロジェクトを開始。京都大学大学院医学研究科の奥野研究室、理化学研究所の医薬プロセス最適化プラットフォーム推進グループとも連携し、創薬プロセスの高度化に挑んでいる。
AIスタートアップは、画像認識や自然言語処理といった特定の技術に重きを置くか、一つの業界に専念することで自社の強みを磨いていくケースが多い。だが、同社のミッションは、AIを用いて、超高齢社会を迎える日本の社会課題を解決すること。
「AI技術は成熟していないし、それを生かした課題解決のサービス化もまだまだ行われていない。一つに絞る必要はないでしょう」と春田は話す。「一方で、それぞれの企業が抱える悩みは、その業界の共通課題であることが多い。この“点”を“線”につなげ、汎用化や構造化ができていけば、個社で関わった案件を業界あるいは社会全体に横展開できると思っているんです」。
壮大な目標だが、石山は学生時代からAIによる社会課題の解決に取り組んできた。東京工業大学大学院では、修士課程で18本もの関連する論文を発表。卒業後は、国立大学から助教のオファーをもらっていたが、「論文を書いているだけでは社会は変わらない」と、事業会社の道を選んだ。
就職したリクルートでは、AI研究所「Recruit Institute of Technology」の初代所長に就任。その後、大企業の一部門ではなく、真正面から社会解決に挑んでみたいとの思いで、デジタルセンセーションの扉をたたいた。