進化するシャンパーニュ。職人たちが表現する土地の個性

J-M セレック(Jean-Marc Sélèque)のジャン・マルク・セレック


ピエール・パイヤール:最良のテロワールの表現を追求


こちらも兄弟が当主を務める生産者で、拠点となる特級格付けのブジー村は、ピノ・ノワール栽培のベスト・テロワールの一つだ。畑は南向き斜面にあり、そこで育つブドウは、ふくよかでパワフルなワインを生み出す。

ピエール・パイヤール(Pierre Paillard)では、兄のアントワーヌがブドウ栽培を担当し、畑仕事にはひときわ力を入れ、ブジー村の個性を表現したワインを造る。

同じ村でも地質が異なることから、「Les Maillerettes」畑はピノ・ノワール100%であるのに対し、「Les Mottelettes」畑は100%シャルドネと対照的だ。この2つの畑のブドウは樹齢が高く、パイヤール家が引き継いでいるブドウの遺伝子を後世に残す役割も担う大事な畑であるが、この2本を比較試飲して、違いと共通点を見つけるのも面白いだろう。

ブジー村ではピノ・ノワールがよく熟すため、歴史的にも赤ワイン造りで有名だ。赤ワインは、ロゼ・シャンパーニュを造るためにも欠かせないが、そのまま瓶詰めして「コトー・シャンプノワ」と呼ばれるスティル・ワインにもなる。

ピエール・パイヤールで、弟のカンタンと、2005年のコトー・シャンプノワを試飲した。ダークチェリーやドライフルーツの風味に、森の下草や黒トリュフのニュアンスが加わり、泡だけではないシャンパーニュの魅力が溢れていた。

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ピエール・パイヤール(Pierre Paillard)のアントワーヌ(Antoine)とカンタン(Quentin)兄弟

JM セレック:若手の筆頭格


2008年、カリフォルニアやオーストラリアでの経験を経て実家に戻った若きジャン・マルクが参画・独立し、自分の考えに基づいたワイン造りを始めた。自らが好きだった近隣の先輩たちのワインが、除草剤をやめ、畑を改善したところのものばかりだったことに影響を受け、自らもそのような農法へ転換した。

新しい技術も取り入れながらワインを造り、急速に評判をあげ、今ではパリの星付きレストランでも採用されるほどの実力。Les Artisansグループには、昨年加入した新規メンバーだ。ジャン・マルクは、「メンバーとは以前から交流があった。Les Artisansは、まず、"人"の集まりであり、ワインに対する同じパッションやビジョンを共有できる友人たちだ。加入は自然なことだった」と言う。

拠点は、エペルネの街からほど近いピエリー(Pierry)村。様々な土壌が入り組み、「シャンパーニュに不可欠なブレンドが既に畑でされている」とジャン・マルクは説明する。近年注目度があがっている、ムニエのブドウに適した土壌でもあり、JMセレックでも、ムニエ100%のシャンパーニュは要チェックだ。

ミュージシャンでもあるジャン・マルクは、シャンパーニュの名前にも音楽用語をつけている。楽譜を意味する「Partition(パルティシオン)」と名付けられたキュヴェは、ベストの7区画の畑から、ベストの7樽を選んでブレンドしたワインで、自らの畑の可能性を追求しているシャンパーニュだ。

訪問時に、ジャン・マルクが初めて造った2008年Partitionを一緒に試飲した。熟成により、バランスが取れて落ち着いた印象と、溌剌として、まだこれからの変化が期待される一面があり、今後の更なる飛躍が楽しみである彼を体現したようなワインだった。

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ジャン・マルク セレック(Jean-Marc Sélèque)
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文=島悠里

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