一流シェフが酒を飲みながら料理する「美食の聖地」とは?

Photo by Antonio Busiello / Getty Images


ミシュランの星が付くレストランのシェフたちもプライベートで料理を楽しむために会員になるほどで、食文化の高さがうかがい知れる。

会員になるには入会費に加え毎年会費を支払い、金額は約200ユーロから1万ユーロとばらばらだ。

そして晴れて会員になると、ようやくソシエダの建物の鍵を受け取ることができる。看板が出ているわけでもなく、会員のみが知る秘密結社のようだ。

中に入ると一切の調理器具が揃ったキッチンとバー、そして大きなダイニングルームがある。会員は使いたい日時を予約して、会員同士でタイムシェアリングの利用。

食材は各自が持ち寄るが、ワインなどの飲み物はストックがあり飲んだ分だけ後日精算。汚れたキッチンや食器類などの片付けには掃除の人を雇っているので、料理をした後は片付けの心配は一切なく、飲んで食べて騒いで、思う存分楽しむことができる。

私は、このソシエダの文化を「美食倶楽部」として日本にも導入しようとしている本間勇輝さんから、ソシエダに所属しているイバンを紹介してもらった。元モデルで現在エンジニアの彼はソシエダをよくデートにも使うらしく、この日もガールフレンドを連れてきていた。

まずは一緒に市場へ食材の買い出しに出かけた。「タカコは何が食べたい?」と聞かれたので、「サン・セバスチャンらしいもの」とリクエストすると、イバンは日本でいうタラのような魚のメルルーサをチョイスし、それに合う生ハムやトマト、オリーブなどを値段や鮮度を見ながら気持ちの赴くままに選んでいった。

ソシエダでは決まったレシピはなく、こうして各自が思い思いに買ってきた素材を活かし、即興で料理することが多いようだ。

そしていよいよソシエダに到着。敷居の高さに少し緊張していた私だったが、周りがいきなりワインを飲み始めたのには驚いた。

これから料理をつくるというのに、順番などまるでお構い無し。そしてお互いに気ままな自己紹介をしながら、ワイングラス片手に持ち寄った食材をざっと確認すると、「今日はなんだかたくさん作れそうだから、誰か他に誘ってみよう」と電話をかけ始める人もいれば、「これじゃデザートがないから、今から何か買ってくる」と再び出かける人もいて、ラテンならではの、あたたかくゆるい雰囲気に思わずほっこりしてしまった。
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文=小竹貴子 構成=加藤紀子

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