第1回では、日本におけるビジネスコンサルの流れについて振り返り、MBA的アプローチ、デザイン思考の軌跡を辿った。第2回となる今回は、その先を行く「アート思考」、そして「アーティストの思考」について説明していく。
ミレニアル世代やZ世代に代表されるように、いまの最先端を生きる人たちの価値観は、数年前に比べ大きく変化しています。テクノロジーも急速に進化していくなかで、企業が抱える課題もますます複雑になり、私のかかわるコンサルティング業界でも、さらにそれらの深いところまで捉えながら、ダイナミックに課題解決をしようとしています。
前回も触れましたが、本来、デザイン思考は、人間が持つ課題をベースとした「課題解決型」の思考です。しかし、現在の人間が直面する課題の多くは、過去に実例がなく、解決が困難になっているため、デザイン思考はさらに進化しています。
そのような新しい思考の一つに、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)の教授アンソニー・ダン氏が提唱した「スペキュラティブデザイン」があります。これは、解決の道筋を立てるきっかけとなる「問い」を生み出し、価値観や信念、また考え方を根本的に変えるための思考です。また、カーネギーメロン大学(CMU)デザイン学部は、デザインの対象を地球規模の巨大な問題や社会規模の価値観に拡張した「トランジションデザイン」という思考を提唱しました。
このような流れからもわかるように、デザイン思考の目的はあくまでも「課題解決」です。では、最近、よくデザイン思考と比較される「アート思考」とはどんなものなのでしょうか。
創造性は理論を越え成り立つ
ビジネスの世界で重要と言われたロジカルシンキング(論理的思考)を否定するように、デザイン思考の次なるものとして、「アート思考」と呼ばれるものに近年注目が集まってきているようです。
しかし、ここで混乱しないよう明確にしておきたいのが、アート作品を扱う人と、アートを創り出すアーティストは、決定的に違うということです。
アート思考といわれる多くのものは、愛好家や評論家など、アートに詳しい人によって語られているように感じます。「あの有名な経営者は名画を高額で手に入れたのでアートに造詣が深い、だから彼のビジネスにはアートの思考が活かされている」というような話は、あくまでもアートを扱う側の話です。
さまざまな課題を、アートという「商材」で解決する発想は「デザイン思考」の領域の話です。そもそも、アートつまり作品は、課題を解決しようとはしていないからです。
アートは、アーティストが持って生まれた感性や才能を直感で表現するというイメージから、論理的な思考とは無縁であり、斬新な発想によって創造されるものと思われています。しかし、これは表層的な見方であって、実は本質を見ていません。