良いスタートを切るために。IDEOが実践するアイデアの発想・拡散法

IDEO Tokyo オフィスにて


最近依頼を受けた、「未来の農業」をデザインするプロジェクトでは、キックオフの際、クライアントに「宇宙を舞台にした架空の世界」をお題として提供した。

“私たちは、最後の人類のために、居住可能な新しい惑星を探査する旅に出ました。幸い、地球に似た惑星が見つかりましたが、喫緊の課題は、人々に食糧を与えるための新たなフード・システムを立ち上げることです。この新しい世界のために、どんな農業をゼロからデザインできるでしょうか?”

チームメンバーには、可能な限りアイデアを目に見える形で表現してもらった。紙のスケッチでも、粘土のモデルでも、寸劇でも構わない。



こうした架空のシナリオと、インタラクティブなプレゼンテーションの組み合わせが、クライアントを非日常の世界へと連れ出し、自分たち自身がワクワクできるようなアイデアを生むきっかけとなる。ここで出てきたアイデアは、大胆で突飛で、あまり現実的とは言えないかもしれない。

でも、それでいいのだ。IDEOでは、「保守的なアイデアから何かを引き出すより、クレイジーなアイデアを収束させる方が余程容易だ」と考えている。

3. 競合ではなく、異業種からインスピレーションを得る


課題を定義できても、その解決方法を考えるのに苦労するケースはよくある。ここで、3つ目のツールを紹介したい。インスピレーションを得るために、類似する業界を観察すること(アナロガス・リサーチ)だ。

ある時私たちは、ビジネスモデルの変革を目指すタクシーの部品メーカーと仕事をした。その会社は、タクシー会社に車の部品を売っているが、数年に一度しか大きな取引がなく、タクシー会社も潤沢なキャッシュがあるわけではない。こうした状況の中で、従来のタクシーのエコシステム以外の収入源を求めていた。

ここでIDEOは、航空業界をリサーチした。航空会社は、マイルを銀行に売ったりするロイヤリティプログラムで付随的な収益を得ており、アメリカン航空やサウスウェスト航空などの外資大手は、これが売上の12〜15%を占めていた。これは成長しているビジネスであるとともに、航空会社に安定したキャッシュフローを提供している。

このエクササイズは、タクシー業界のこれまでにないサービスモデルを考える上で、大いに参考になった。

未来をデザインすること、これまでにない事業を創造することは、容易ではない。組織が大きいほど、不確実な状況には不安を感じるだろう。そして確実に成功する「完璧なビジネスアイデア」を求めたくなるかもしれないが、今の時代、100%予測可能なものはほとんど存在しない。

ここで紹介した3つのツールは、出だしでつまずきそうな状況を打開し、未来をデザインするエキサイティングな旅路のきっかけになるだろう。ここで答えは出なかったとしても、良いスタートを切れることは間違いない。

文=岩下恵(IDEO Tokyo デザインディレクター)

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