なぜ志摩半島の老舗ホテルにはインバウンドの観光客が少ないのか


確かに、私がこの10年間、世界各国で日本の地方のプロモーションを行うなかで、名指しで恐縮だが、三重県や三重県の観光事業者の方を現場で見かけることは少なかったし、伊勢神宮などは、JNTO(日本政府観光局)などももちろんプロモートはしているものの、伊勢・志摩エリアとをつないだ周遊滞在型観光地として、宿泊施設の魅力を伝えるセットとしてのプロモーションにはなっていないように感じていた。

これには、例えば昨年(2019年)の伊勢神宮の参拝者数が、改元の影響もあって過去3番目の多さを記録した972万9616人になるなど、わざわざ海外に向けて頑張らなくても、国内で充分な集客効果があるという地元の伊勢市や三重県の基本的な姿勢もあるかもしれない。

しかし、とくに海外誘客に関しては、適切かつ継続的なプロモーションをしなければ減少するのは自明の理で、実際、伊勢市を訪れる外国人観光客数は、伊勢志摩サミットがあった年をピークに減っている。その数字に比例し、伊勢市と隣り合う、今回のホテルの所在地である志摩市もしかりということだろう。



やり方によっては、伊勢志摩サミットの際に、もっと世界に向けた効果的なプロモートができたはずなのに、その後のフォローを含め、いったいどうなっているのか。疑問が湧いてきて、G7サミット開催の効果検証についても少し調べてみた。

このような検証のためには、まずは、地元自治体の発表を見るのが早い。そこで、三重県のHPを検策したところ、平成29年(2017年)に掲載された検証レポートが見つかった。

検証は、インバウンドも含む県外観光客の増加による経済効果、MICE(国際会議)の開催の増加効果、サミットで使用・発信された各種県産品のブランディングや販売促進効果、外資系企業の投資による事業、外国語案内ボランティアや通訳案内士の増加、グローバル教育の推進……など、多項目で行われていたが、主体はやはり経済効果の観点での検証となっていた。

検証のまとめとしては、県外観光客数の増加による経済効果として、314億6000万円という大きな数字が示され、その数字に対し「県民の皆さんの実感と乖離している部分もあったものと思われるが、日本酒の知名度の向上、県産品の売上量の増、販路拡大、メディアへの露出の増、インバウンドの増、三重テラスでの情報発信というように、定量的、定性的にも認識しやすい形で現れてきている(中略)」と書かれてあった。

「なるほど」と読み込みながらも、往々にして行政のこういった報告書は、数字ばかりが踊り、県民1人1人の実感には届きづらいことがある。その部分を率直に検証で示しているところなどは微笑ましかったが、しかし、やはり数字ばかり見ていても、それが実感の伴い難い大きな数字の場合は、果たしてその分析はどこまで有効だろうか。
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文=古田菜穂子

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