旅の目的は、有名なそのホテルの「あわびのステーキ」と「海の幸カレー」の両コースを味わうこと。翌日は、ゆっくり伊勢神宮にでも参拝しようという考えで、まずはランチを味わうべくホテルに向かった。平日だったこともあり、ホテルは比較的空いており、チェックイン時間よりも早く着いたにもかかわらず、快く部屋へと通してもらった。
さすがに歴代の皇室御用達、2016年のG7伊勢志摩サミットの会場にも選ばれたホテルだけあって、天井が高いマホガニートーンの落ち着いたインテリアの部屋や、押しつけがましくなく、しかしフレンドリーで配慮の行き届いたホテルマンやホテルウーマンの接客など、日本ならではの老舗ホテルの心地よさを心ゆくまで堪能した。
そして、この「心地よさ」とは何なのだろうと考えたとき、まずこのホテルの「静けさ」にあると思った。そして、次に頭をかすめたのは、この老舗ホテルの「日本ならではのおもてなし」だった。よくある日本の旅館で女将が配する慇懃なおもてなしではなく、周囲の景観をも含め、ホテルという日常を離れた空間を静かに提供しようというおもてなしだ。
志摩半島の英虞湾に沈む、言葉にできないほどの美しい夕陽を見つめながら、このホテルのように、日本ならではの「心地よいおもてなし」ができているホテルは、そうそうないのではないかと思った。
G7サミット後の三重県の検証
しかし、そんな日本ならではの「おもてなし」を味わえる素晴らしいホテルであるにもにもかかわらず、驚いたことに、このホテルは日本人の観光客ばかりで、インバウンド旅行者の姿を見かけなかったのだ(実際、私たちが滞在した日には1人も見かけなかった)。
私たちが滞在した期間がたまたま外国人の滞在が少なかっただけなのかと、ホテル関係者に尋ねてみたところ、次のような答えが返ってきた。
「時折、欧米の個人客の方や、春節などにはアジアの方もみえますが、この地域はまだ観光地として知られていないのか、それほどいらっしゃっていただけていないのです」
そうか、だからこの平穏な静けさが保たれているのかという妙な納得とともに、一方で、日本への外国人旅行客の誘客プロモーションをしている私には、こんな魅力的なステイをアピールしないのは、このホテルにとっては実にもったいないのではないかと考えた。