小売業者ファーストリテイリング会長兼社長柳井正が首位を獲得
2015年4月2日、「フォーブス」誌より日本長者番付が発表された。「フォーブスジャパン」編集長高野真が今年度発表の日本長者番付のトレンドを読み解く。
アベノミクス3年目となった2014年。世界的な金融緩和を背景に資本価格の変動性が増大し、その結果、各国の株価・為替が乱高下した。昨今の富創造のプロセスとして相続よりIPOや保有資産の売却・価格上昇によるケースが主流なだけにこの資本市場価格の変動は長者番付に多大な影響を与えている。
2014年における株価上昇率を国別に見ると日本株式の騰落率は世界26位、ドルベースで8.25%の上昇にとどまり、1位である中国の43%上昇に比べ軽微にとどまっている。それだけみると株価上昇が日本の長者に多大な貢献をしたとは見えない。しかしこの1年で円は14%下落し円資産価値を減価、ドル資産価値を上昇させ、一方で円ベースでの株価は36%も上昇し、これらが悲喜交交の2014年長者番付物語を作り出している。
海外売上を大幅に伸ばしたユニクロ柳井正氏、アリババ上場により多額の資産を得たソフトバンク孫正義氏、1.6兆円もの資金でビーム社の買収を決めたサントリー佐治信忠氏、M&Aを積極展開し海外進出を加速させた楽天三木谷氏。これら長者たちの富の蓄積・移動・消失が世界的金融緩和の中で、これまで以上に資本市場と密接にかかわっているのが2014年の日本長者番付の特徴である。
もう一つ特徴は、ここ数年IT長者・ゲーム長者が一つのトレンドとして長者番付を彩ってきたが、今年は見られなかった。昨年のコロプラ馬場功淳氏が最後のランクインであった。
一方で今年新たにランクインした山海嘉之氏、鈴木郷史氏、篠原欣子氏、3名は日本長者番付の新しいトレンドを作り出している。山海嘉之は昨年の株式公開により一躍長者入りしたが、大学における研究を実現するために研究成果を活用することを目的に設立した大学発ベンチャー企業がサイバーダイン社であり、基本的に研究者であり、その研究のためのIPOという色彩が強い。
化粧品メーカー、ポーラ・オルビスホールディングス鈴木郷史氏も新たにランクした一人である。創業者一族として典型的なプリンスとして見られがちだが、2000年の社長就任以来、ブランド価値に重きを置いた経営改革手腕は見事である。株価がその物語を鮮やかに表現している。就任以来の株価チャートはITバブル崩壊、リーマンショックをものともせずきれいな一直線の上り基調である。
3人目は、女性として初めて相続ではなく自力で富を創りだしたテンプスタッフの取締役会長篠原欣子氏である。篠原氏の人生物語を日経新聞の「私の履歴書」で読んだ方も多いのではないだろうか。彼女の苦労人物語に多くの人が共感したに違いない。人材派遣という事業形態が十分認知されていない状況下、起業し、業界のトップ企業にまで成長させた篠原氏の先見性と経営手腕は高く評価される。
この3人に共通するのは信念や志もってビジネスを構築し、長い時間を経てその成功を勝ち得ていることである。昨今、ゲームソフト長者などに見られるような一発屋的長者たちとは一線を画く。いうなればビジネスモデルと志の勝利である。