米国で郊外のショッピングモールは、もはや救いようがないと思われることも多いが、マスラニは過去にいくつかの再生に成功してきた。なかでも鮮やかだったのは、2002〜10年、米不動産会社ヴォーネード・リアルティー・トラスト(Vornado Realty Trust)のリテール担当副社長時代に手がけた、ニュージャージー州パラマスの「バーゲン・モール」だろう。
このモールは、ヴォーネードが買い取った03年時点で開設から46年たち、時代遅れになっていた。マスラニは再建事業の責任者として、新しいテナントの呼び込みなどを主導。最も思い切った措置は、高級スーパーのホールフーズを引き込んだことで、これは実際、集客の回復という点で最も大きな効果を挙げた。廃業の危機にあったモールは「バーゲン・タウンセンター」として生まれ変わり、現在もにぎわっている。
マスラニがウィーワークの仕事を引き受けたのも、ヴォーネードでの経験から説明できるかもしれない。彼自身の担当はリテール部門だったが、当時、ヴォーネードはオフィススペースを重点事業分野に位置づけていたからだ。幹部たちは、インターネットがニューヨークなど大都市のオフィス物件の需要にどんな影響を及ぼすかを見極めようとしていた。
マスラニは10年にヴォーネードを去り、米ショッピングセンター運営大手のジェネラル・グロース・プロパティーズ(General Growth Properties)のCEOに就いた。同社では保有するモールについて、食や娯楽関連のテナントを増やす、デパートのスペースをスポーツ用品販売のディックス・スポーティング・グッズなどの大型店舗に切り替える、新しい消費者直販ブランドを誘致する、といった改革を進めた。
ジェネラル・グロースは18年に米不動産大手ブルックフィールド・プロパティーズに買収され、マスラニはこれまで同社のリテール部門のCEOを務めてきた。
マスラニはウィーワークで、モールと同様の課題を検討することになるだろう。モール業界では、自宅などからでも買い物ができ、わざわざモールに出かける必要がなくなった新しい現実に対応して、「住み、働き、遊ぶ」環境を整える必要があると言われてきた。
ウィーワークとマスラニの方は、自宅から働く人が増え、従来のオフィスを必要とする人が減っているという世界で、オフィススペースを借りてもらう(そして利益を稼ぐ)方法を見つけなくてはならない。
かつて彼が関わったバーゲン・タウンセンターは今、次のリニューアルに合わせて、住居スペースを追加することを検討しているという。
その類推で言えば、ウィーワークを救うものも、オフィス、リテール、住居といった事業の連携かもしれない。マスラニはウィーワークの以前のモデルの「遊ぶ」という部分に大なたを振るい、「住み、働き、買い物する」という新しいモデルを生み出すことになるのか、今後の動きに注目していきたい。