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シネマの女は最後に微笑む

映画『よこがお』の深田晃司監督(左)と筒井真理子(右、Pier Marco Tacca/Getty Images)

新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、SNSではさまざまな情報が飛び交っているが、その中にはフェイクニュースとされるものも混じっている。さらに、中国の武漢が発祥地となっていることから、国内在住の中国人を含むアジア人への中傷や差別があちこちで起こっているという。

これを受けて今月初めに厚生省の担当者が、「デマに惑わされず冷静に対応を。悪いのは人ではなくウィルス」と会見するまでになった。

デマを流されることで被る被害は、計り知れない。記憶に新しいところでは昨年、あおり運転傷害事件の関係者であるとの誤情報を拡散された女性のケースがある。この場合は、別の女が逮捕され彼女の無実が証明されたが、無実なのに証明のしようがなく、情報だけが一人歩きをしてしまう場合が多いだろう。

そんな取り返しのつかない状況に突き落とされた一人の女性を主人公にしたのが、去年の夏に公開されて話題となった『よこがお』(深田晃司監督、2019)である。

彼女は過去に何が起こり、今何を起こすのか?


かつて、訪問介護士として大石家に通っていた市子(筒井真理子)。寝たきりの祖母・塔子の介護をする手つきや表情は、熟練の介護士のものだ。

市子を手伝うのは大石家の長女、基子(市川実日子)。市子に憧れる彼女は、仕事が引けた後の市子に介護の勉強を見てもらっている。基子を見守り育てようとしている市子の、髪をひとつにまとめ静かな微笑みを浮かべた姿からは、温和、堅実、安定感といった言葉が浮かぶ。

一方、現在の市子は介護の仕事をしていない。ゆるくウェーブした髪を肩まで下ろしたスタイル、女っぽい服装は、以前とは別人のようだ。その行動は一貫して、美容師の若い男、米田(池松壮亮)に近づくために組み立てられている。だが市子の「復讐」の相手は米田ではない。彼は道具に過ぎない。

このドラマはある出来事によって市子の生活が一変するまでの状況と現在、つまり市子の2つの「よこがお」を交互に語っていく中で、彼女に何が起こったのか、今の彼女は何をしようとしているのかをサスペンスフルに描き出していく。

いつものように喫茶店で、基子と次女サキの勉強を見てやっている市子。サキが店を出た直後に、甥の辰夫が市子に借りていた本を返しに現れる。その時、喫茶店のガラス窓の外から無邪気なサキが市子たちの注意を引いたのは、全くの偶然だった。

翌日、サキの一晩の失踪は甥の辰夫の犯行だったことを市子はテレビのニュースで知る。予期せぬ出来事とは言え、辰夫がサキを目撃するチャンスを作ってしまったと自責の念に囚われた市子は、家族に話して謝りたいと基子に相談するも、秘密にするべきと反対される。

文=大野 左紀子

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